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「……うっ!げほっ……!」

自分の咳込む声で意識を取り戻して目を覚ました。ぼんやりしていた視界は少しずつハッキリ見え始めると、高い天井が目に入った。ここはどこなんだろうかと考えながら体を起こすとすぐ近くにゾロを見つけた。

「………」
「なんだその嫌そうな顔は」
「そんな気にさわるような顔したつもりはないけど、そう見えたならそうなのかもしれない」
「てめェ……!」

正直言ってしまえばゾロだったのは残念だと思ったよ。だけど顔に出るほど強く感じたわけじゃないから不快にさせたのは謝るよ。ゾロには言わないけど。

「私を助けてくれたのはゾロなんだね、ありがとう」
「おう」
「ところでここは?」

もう一度辺りを見渡す限り、柱や壁に高そうな装飾が施されているので、そこら辺にあるようなお家じゃなさそうだ。

「竜宮城だ。さっき拾ったクラーケンに食われてたサメをおれ等が助けたらしいんだが、それの礼をしたいってんで招かれた」
「あー!確かに口からサメが出てきてたね。ここのペットなんだ」


ルフィの目にとまる生物に捕まっていなければ今頃ここへは帰ってきていないだろう。だからあのサメが助かったのはただのラッキーだけど、宴になるなら遠慮せずに頂こう。


「噂の娘さんは目を覚ましたかのぅ?」

竜宮城の中を物珍しく思い、歩き回って観察していると、もじゃもじゃの大きな男の人がゆっくりと現れた。いきなり噂の、と言われても付いていけずに首を傾げる。

「あたしのこと?」
「ほォ、おぬしが白ひげの一人娘と言われる娘か」
「うん、リリナです」
「わしはこの国の王であるネプチューンじゃもん。白ひげとは友人であった」
「……あっ!魚人島の国王は知り合いだってオヤジも言ってた」

前に宴の席でオヤジの昔話で聞いた国王に、こんなすんなりと会えると思っていなかった。友達が国王だなんてオヤジも顔が広いな。

「……あやつのことは、残念じゃもん。もう一度ゆっくり話がしたいと思っていたが、叶わないと分かると寂しい。おぬしも、あやつが死んでから大変な思いをしたと聞く」
「……うん。今も寂しいけどそうも言ってられないしね!あたし今麦わら海賊団に入ったから忙しいの!」

そういうと国王は丸くした目を細めてから優しく笑った。その顔がオヤジとかぶって見えて少しだけ胸が苦しくなる。


「あっ!ゾロ一人だけ先にお酒飲んでるズルイ!」
「早い者勝ち。つーかあいつら遅ェな」
「…………」

遅いだなんて迷子常習犯のゾロにだけは言われたくないけれど、せっかくのお酒が不味くなるって言われそうだから本人には言わずに留めておく。

繋ぎとして出されたフルーツを口の中に運んでいると、国王はルフィ達を呼びに出たまま帰ってこない息子達を探しに、大きなクジラに乗って城から出て行ってしまった。

また広間にぽつんと残されて静かな空間が戻ってきた。早くしないと食べものは全部平らげてしまいそうだ。


途切れ途切れゾロと会話を楽しんでいると、人魚を攫った疑いと未来の不確定危険人物と決めつけられ、いきなり牢へ入れられてしまった。

「さっきまでもてなされてたのにね」
「……お前が抵抗するなっつーからだ。人魚なんて攫った覚えもここの奴らを敵に回した覚えもねェってのに」
「でも暴れたら状況悪化しちゃうでしょ。それに……この島の人とは争うなってオヤジに言われてたの」

あたしはオヤジが間違ったことを言ったところを見たことがないから、今はいなくなってしまったけど言い付けは守っていたい。それを聞いたゾロは言い返して来なくなったけれど、刀を弄って追いつかない様子。お酒を飲んだから少し気分が高ぶっているのかもしれない。

「あ、酒なくなった」
「……なんか向こうが騒がしい」
「始まったみてェだな」
「いや、始まっちゃいけないやつだよ」

ギラリと目を光らせて牢を打ち破って騒がしい方へ向かっていったゾロの後を追うとやっぱりもう争いは始まっていた。というかあたし達の方が押してる感じ。一方的にやってしまってる感じ。
そしてあっという間に兵士たちを拘束してしまった。ゾロは峰打ちだったとはいえ国王をあんな目にしてしまったなんて、ルフィがいないのに結局こうなってしまうんだ。

「いくら何でも……やりすぎだ!」
「そうですよ!ちょっと反省してくださいよっ!」
「おめェらが始めた戦いだろうがよ!共犯だバカ野郎!」
「おれ達ァ威嚇して逃げるつもりだったんだよ!」
「ただ平和に観光とショッピングを楽しんでたのに……」

そして我に帰ったみんなは一番の罪を押し付けようと口論を始めた。国王に合わせる顔がなくて他所を見ながら謝っておいた。そういえばロビンとフランキーとチョッパーとサンジくんがいないことに気付く。


すると竜宮城のチャイムが鳴った。大人しかった兵士達が助けが来たと騒ぎ始めて、ゾロがそのチャイムに応えると一層騒ぎが大きくなった。

『私です、フカボシです!そちらで何か起きているのですか!?今すぐに連絡廊を下ろし総門と王宮の御門を開けて下さい!』
「開けたらどうなる。そいつはできねェ!」
『麦わらの一味の、どなたでしょうか?』
「フカボシ!そやつら麦わらの一味の三刀流剣士、懸賞金1億2千万ベリー!"海賊狩りのゾリ"じゃ!」
「ゾロだよ!」

電話越しにコーティングしたサニー号とここに居ない4人を用意するようにフカボシに要求した。少しの間があってから条件をのんでくれると言った。

『一ついいかゾロくん。こんな状況でこれを伝えるのは不本意だが、ジンベエへの義理を欠く訳にはいかない。元王下七武海"海侠のジンベエ"より"麦わらのルフィ"へ。君らがこの島に到着したら伝えて欲しいと、伝言を二つ預かっている』
「ルフィは今ここにいねェがおれから伝える。言え」
『一つ目は、ホーディと戦うな。もう一つ、海の森で待つ。……この二つだ』
「ジンベエこの島にいるの?」
『います』

どうせなら会いたいなーと早く海の森に行こうと急かそうとするとどこからか大きな音が鳴り響いた。

「何の音じゃもん!?……まさかデッケンの槍か、硬殻塔の方じゃもん!しらほしが危ない!衛兵はついておるのか!?」
「いえ……全員こちらに捕まっております!」
「おい海賊達!兵に代わって姫の安全を確かめて来い!」

得体の知れない音が響く中国王が少しずつ焦り始めたように声が大きくなる。

「硬殻塔は城の北東じゃ、お前達すぐに行け!」
「なんで人質に命令されなきゃならねェんだ」
「黙れい!しらほしはわしの一人娘じゃもん!訳あって常時命を狙われておる!この機に娘に何かあったらおぬしら、海溝の果てまで追い立てるぞ!」

人魚姫が竜宮城のどこかにいるという話は前に聞いたことがある。訳あって表に出ることが出来ないらしい。それならば今見に行くチャンスだと一人で飛び出したつもりが、隣にバタバタと走るブルックが並んだ。

「白ひげの一人娘がいるのならば多少は安心できる。このガイコツが変な真似をせぬ様見張っていてくれ!」
「うん、任せて!」
「ヨホホ!これは人魚姫さんとリリナさんのパンツを同時に拝見出来るチャンス!」

ブルックは無視して音のする方へ急いだ。辿り着いた先にあった塔の外壁は傷だらけだった。周りには傷だらけの海賊達。そしてその時音の原因がこの人間達が壁にぶつかった時の音なんだと知った。