208

辿り着いた硬殻塔の壁には大きな斧や槍など、数え切れないほどの凶器が突き刺さっていた。あまりの惨状に言葉を失っていると、よく知る明るい声と一緒に塔の重々しい扉が開いた。

中から出てきたのは魚人島へ着く前にルフィが手懐けた、クラーケンに捕まっていたサメとそれに跨る元気なルフィ。しかもサメはなんだか苦しそうにしながら、それでもあっという間にどこかへ泳いで行ってしまった。

「何だと言うのだメガロ!硬殻塔の扉を開け放って行くとは姫に何かあったら……。ガイコツ急げ、姫の安全の確認を!」
「ちょっと!ホネ使いが荒いですよっ!」
「……!?」

ルフィが居なくなった後の塔の中はもぬけの殻だった。大きなベッドは綺麗に整ったまま、特に荒らされた形跡もない。外の状況とは打って変わって静かだった。

「大変だ!国家的一大事だ!一体いつ、何者の仕業だ!これは誘拐事件に他ならん!」
「誘拐ィー!?」
「お散歩に出かけてるんじゃない?」
「そんなわけあるかー!」

一緒について来た右大臣は大粒の涙を流して取り乱している。その横で散歩してるんじゃないかと口から零すと、すごい剣幕で怒られた。


怪しすぎるルフィ達が見えなくなると突然、後ろから刃が振りかざされた。狙われたブルックはそれを難なく躱すと剣を抜いて目を鋭くさせた。目はないけれど。
投げ飛ばされて来た海賊達の数人が弱々しくも剣を構えていた。

「ちょっと何するんですかアナター!」
「魚人島と竜宮城を繋ぐ連絡廊……その開閉スイッチはどこにある……!」
「え!?スイッチ!?」
「ガイコツ!とにかくネプチューン様のもとへ急げ!この事態をすぐに報告せねば!」
「やるしかねェんだおれ達は……!命令通り、ヤツらの言うことを聞く他、生きる術がねぇ……」

全身血だらけ、上手く力の入らない身体を無理矢理動かして鋒を向ける海賊達は殺されると言って何かに怯えているみたいだ。

「そんな奴らは放っておけ!今は一刻も早くネプチューン様のもとへ急ぐのだ!」

ブルックは右大臣を抱えているからあたしが前に立つ。しかしそれを右大臣に止められて急かされるまま来た道を戻った。海賊達も追って来たけど、傷を負った体では走るあたし達に追いつくことも出来ないまま距離が開いてすぐに見えなくなった。


国王のもとへ戻って事態を報告すると目を大きく開いて、少しの間放心状態になってしまった。それほどショックなんだと静かに見守っていると、追って来ていた海賊達が広間へ入ってきた。
人数が増えていたけど好戦的なゾロが一人で叩きのめした。

人魚姫しらほしは国王くらいに体の大きいようで、ルフィがあのサメの口の中に詰めて連れ出したんじゃないかと言い出した。こっちがなんと言っても国王はルフィが犯人だと一点張り。しかも人魚姫が無事に戻らないならば仲間も船も返さないとまで言われて更に言い合いがヒートアップする。


ナミとウソップが悪化するのを食い止めようと反論していると門の方からたくさんの魚人達が現れた。その姿を見たこの城の人達はどよめく。兵士達の話を聞いていると、どうやら先頭に立つ大きな体の二人はバンダー・デッケンとホーディ・ジョーンズと言うらしい。
そういえばさっきフカボシと話したとき、ジンベエがホーディとは戦うなって伝言があったはず。

「バンダー・デッケン!おぬしが現れたからにはもう疑いようもない!犯人は貴様じゃ!娘を返せ!」
「バホホホ、まだ嫁にも貰っていねェのに返せとは気が早いぜお父様!」
「お父様と呼ぶなァ!しらほしをどこへやった!?無事でおるんじゃろうな!」

国王と大臣の慌てようからこの二人は危険人物なんだと分かる。そして人魚姫を誘拐したと決めつけられていたけど、バンダー・デッケンに矛先が向けられてなんだか安心した。

「人魚姫さんどちらに行ってしまったんでしょうねぇ。ヨホホ」

隣で体を左右に揺らして惚けているブルックはサンジくんと重なって見える。だって今の状況ならきっとサンジくんも人魚姫に会いたくて仕方なく思うだろうし。


その間にバンダー・デッケンが飾られていたサンゴを投げて飛ばした。どこかへぶつかると思ったサンゴは不思議に投げられた逆へ方向を変えて飛んでいく。それに乗り込んで消えたバンダー・デッケンを見て静かだった国王がまた大量の涙を流して叫び出す。

「バンダー・デッケンがしらほしを追って行ってしまったァ!頼むんじゃもんお前達!欲しいものなら何でもやる!デッケンを追わせてくれェ!金銀財宝でも兵士達の命でも何でもやるもん!」
「コラコラ国王!」
「しらほしが奴に捕まってしまう!わしの宝しらほしー!」

取り乱す国王を口角を上げて笑うホーディ・ジョーンズ。

「まさか因縁の麦わらの一味が竜宮城制圧に力を貸してくれるとはな……!」
「……ぬう。ジンベエより魚人街に不穏な動きがあると聞いていたが……元々ネプチューン軍に属したお前が主犯とは……恥を知れホーディ!」
「ジャハハ、恥?それはネプチューン軍として高い誇りを持っていたらの話。かつて兵士として仕えたのは実戦での戦闘技術を身につけるため、それだけだ」

おかげで強くなれたと顔色変えずに言うホーディに奥歯を噛みしめる右大臣に気が重くなる。経験がある。一つの悪魔の実欲しさに白ひげ海賊団の勢力を利用して所属していた黒ひげと同じだ。

「ガキの頃から目にしてきたのは理不尽に人間に虐げられる魚人族。憧れたのはそいつらの鼻っ柱をへし折るアーロン一味の野心!おれ達はその意志を再興する親魚人海賊団だ!彼が計画通り東の海イーストブルーから世界の支配に乗り出す頃におれはアーロンの右腕となれるよう力を蓄えてきた。だがそれはある人間達によって阻止されちまったがなァ!」
「…………」
「……!コイツらアーロンの意志を汲む魚人達なのか!?」
「ええ!?アーロンの!?……なんちゃって、アーロンって私まだ食べたことないんですけどー!ヨホホ!痛いっ!ちょっとウソップさんなぜ蹴るんですか!?」

たまに話に出てくるアーロンって名前が出るとみんなへの字に口を曲げて黙る。ブルックが陽気に話に乗ろうとしたら結構力を込めてウソップから蹴りを入れられてた。

「……ねえアーロンって?」
「ああ……後でコックにでも聞いとけ」
「うん」

見上げたゾロは一瞬だけ目を合わせてすぐにそらした。そっぽを向いてすぐにホーディを見据える。ゾロの向こう側にいるナミの顔が心なしか青ざめて見えた。



「"粗鮫ソシャーク"」

静かにゆっくり門の柱に手をかけたホーディによって大きな音を立ててヒビを作った。壁が割れて勢いよく海水が流れ込んでくる。

「"矢武鮫ヤブサメ"!」
「水滴が矢に!」

腕についた海水を振り払うように、勢いをつけて腕を振ると水滴は鋭く変形して、身動きの取れない兵士達に命中する。

「貴様……!我が軍の精鋭達を闇雲に傷つけおってェ!やめぬか!愚か者めェ!」

何度も振り払われる矢から自分の体を盾にして兵士達を守る国王。

「バカな奴だネプチューン!部下の盾になる王がどこにいる!やはりお前の王の器じゃねェんだよ!」
「"ブリーゼ"」

向かってくる水滴の矢を風を起こしてなぎ払うと逸れた水滴は壁に当たり穴を作った。

「動かない的に当てて楽しい?」
「リリナ!」
「……娘、」
「一刀流"厄港鳥ヤッコウドリ"」

それでも矢を飛ばしてくるホーディに刀を抜いて対抗するゾロは刀を抜いて斬撃を飛ばした。
ホーディはそれを近くにいた仲間を盾にして防いだ。犠牲になった魚人は血を流して気絶しているのに海水が溜まり始めた床に投げ捨てられた。その行動に眉間にシワが寄る。

兵士のために自分を犠牲にする国王と仲間を盾にして自分を守るホーディ。対立する二人はあまりに正反対だった。