あかいりんご(キバナ)

カジッチュを知らないナマエと、
想いを伝えたと思ったキバナのお話


「これ、お前にやるよ!受け取ってくれるか?」

ニコーッと笑いながら差し出されたのは真っ赤なりんごとすっぱい匂いのするりんごだった。

(受け取ってくれるもなにも、りんごだよ…?)

いつもなら有無も言わさず物を押しつけるように渡してくるキバナだが、
今日はなぜかワンクッション置いてきた。

『?うん、ありがとう』
と受け取れば、何故かとても嬉しそうに
「本当にいいのか?!」と抱きしめられた。

『?うん』

「ありがとなっ!!!!」
『?こちら、こそ…?』

更に強く抱きしめられたかと思うと、彼のスマホロトムが鳴った。
どうやらナックルシティに戻らなければならないらしい。

「大事にしてくれよ!!」
そして彼は笑顔のまま風のように去って行ったのだ。


家に帰って貰ったりんごを食卓の果物がたくさん入ったバスケットの一番上に置く。
『大事にしてくれよって言ったって…』
大事に食べろってことか…

んー…今度キバナがうちに来たときに一緒に食べようかな。


ーーーーーーーー
なんだろう、ここ数日、家の中で誰かに見られている気がする…

それに、私が留守の時に、作り置きしているご飯が僅かながら減っていたりするのだ…

今も誰かに見られている気がして、不気味になり家を飛び出した。
向かう先は今一番仲の良い、キバナの家。

インターホンを鳴らせば、何の事情も知らないキバナが笑いながらドアをあけた。
お邪魔します、と彼の家に上がらせて貰い、ソファに座る。彼の家は相変わらずお洒落で、このソファの彼のチョイスなのかドラゴンカラーだ。

「ココアで良かったよな?」
飲み物を入れてきたキバナはテーブルにマグカップを二つ置きながら、ナマエの隣に腰掛けた。
ココアの良い香りがしてきて、ほっと一息つく。

「どうしたんだよ、こんな時間に」
『いきなり押しかけてごめんね』
「いや、オレさまもちょうどナマエに会いに行こうと思ってたところだったから、ちょうど良かったよ。それにお前から来てくれるなんて思ってなかったから嬉しい」

なんて、頭を撫でながらそう言ったキバナはまるで彼氏のようだ。
こんなことを素でやられたら、勘違いしちゃうじゃんとナマエは内心悪態をつく。
そんなナマエにキバナは爆弾を投げ込んできた。

「そういや、あいつは元気か?今日は連れてこなかったのか?」

『あいつって…誰?』

「は?」
『え?』

お互いの問いかけに2人とも見つめ合ったまま固まる。
数秒のことだったはずなのに、それは何分間も見つめ合ったかのように感じた。それくらいお互い驚いていたのである。

「なっ…!お前、カジッチュあげただろ!?」
『え…?カジッチュって何…?しかもいつ?』
「はぁ!?この間あげたじゃねぇか!すっぱいりんごと一緒に!」
『うん。りんごは貰ったね?』

「その一個がカジッチュだよ!りんごの見た目をしたドラゴンタイプのポケモンだよ!」
『そうなんだ。』

りんごの見た目をしたポケモンなんているんだー。

『て、えぇっ!!???そうだったの!?!?』
もうここ数日で一番大きな声が出たと思う。
知らなかったと言うナマエは、他地方生まれで、
仕事の都合でこっちに来たからあまりガラルポケモンに詳しくないのだ。

「そうだった、こいつこっちのポケモン詳しくないんだった、てことはあれか…?あの…」
と頭を抱えながらブツブツ呟いているキバナの顔はなんともいえない表情で…

『ごめんね…?』
「いや、オレもきっちり説明しておくべきだった…なぁ、ナマエ」
突然彼が身体をこちらに向けて改めて名前を呼んできた。

『何?』
「カジッチュを知らないってことは、あのジンクスも知らない、のか?」
『ジンクス?カジッチュにジンクスなんてあるの?』
と返せば、それはもうキバナは可哀想なくらい項垂れてしまった。一番可哀想なのはカジッチュなのだが…

項垂れていたキバナだったが、気持ちを切り替えたのか、再度ナマエの瞳を見つめた。
今度は驚いて見つめ合ったときとは違い、真剣な目差しで、そのターコイズブルーの瞳に引き込まれそうになる。
「今度ちゃんとオレさま自身の言葉でちゃんと伝えることにしたから、
覚悟しておけよ?」

言った彼の目差しは獲物を捕食するドラゴンそっくりの目差しだった。


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オマケ&ラストにボツネタ有り

「で、カジッチュはどうしたんだよ?まさか食ったとか言わねえよな?」
『キバナが大事にしろっていったから、一緒に食べようと思って果物かごに入れてるよ』
「大事にしろって言っておいて良かったぜ…言ってなかったら今頃…」

そんなやり取りをしながら、ナマエの部屋に入る。

キバナは果物かごから真っ赤な方のりんごを取り出し、
「カジッチュ」と名前を呼んだ。

すると、ただの果物だと思っていたりんごが
「カジッチュ!!」と鳴いたのだ。よく見るとヘタ部分に目まで出てきている。

「こいつは人見知りをするからな。お前が名前を呼んでくれるの待ってたんだと思うぜ」
部屋の中で視線を感じたのも、作り置いたご飯が減っていたのもこの子だったのか…
ナマエを見上げる小さなりんごにナマエは
『気付いてあげられたなくてごめんね。これから、よろしくね』
と微笑めば、
赤いリンゴは嬉しそうにナマエの手に飛び乗ったのだった。

ーーーーーー
ボツネタ

ナマエが果物かごにりんごを入れてから数日が経ち、
久々のオフだというキバナは足取りはるんるんでナマエの家に向かっていた。
ナマエが自分の彼女になってから家にいくのは初めてだ。

オレさまがあげたカジッチュ大きくなったかな〜♪
それとももう進化させてアップリューになってるのか?
オレさまとお揃いのドラゴンタイプ〜♪
なんてルンルンで向かっていればあっという間に彼女の家に着いた。

「お邪魔しまーす」
『どうぞー』

さぁて、カジッチュは、と…
早速自身があげたカジッチュを探したキバナは凍り付いた。

「な、なぁ…あのりんごって…」

キバナが突然指さした方向を見たナマエは、
『キバナがくれたりんごだよ〜。キバナと一緒に食べようかなってとっておいたの。今カレー作ってたんだけど、それに入れようと思って』
なんて背筋が凍るようなことを言った。
カジッチュもその台詞が耳に入ったのか、突然青くなり震え始めた。

「あれ、カジッチュ!!!!ポケモンだ!!!!!」
『え!?そうなの!?!?』

カジッチュは食われかけてたわ、
カジッチュジンクスもしらないナマエに、
キバナは
ーオレの詰めが甘かった…ーと凹むのでした。

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