あかいりんご(ダンデ)

「ナマエ。受け取ってくれるか?」

そうダンデくんから、手に乗せられたのは真っ赤なりんご。

『りんご?』
「あぁ、でもただのりんごじゃないぜ。カジッチュって呼んでみてくれ」
ただのりんごじゃない?どういうことだろう。
疑問に思いながら、手のひらに乗せられたりんごに呼びかけてみる。

『カジッチュ』
りんごに呼びかけるなんて、なんだかこそばゆいなんて思っていたら、突然手のひらの上もこそばゆくなった。

よく見てみるとリンゴが小刻みに揺れ、ヘタからは小さな黒い目が出てきて、「カジッチュ!」と元気よく鳴いた。


「それはカジッチュと言うポケモンだ」
展開について行けていない私に、ダンデくんが説明をしてくれる。 

「くさ、ドラゴンタイプのポケモンで、元々は幼虫のような見た目なのだが、すぐりんごに寄生する。そして敵から実を守るため〜…」

と凄く丁寧に説明してくれるのだが、7割ほどは頭に入ってきていない。
何よりガラル地方初めてのポケモンで、それがとても可愛いのだ。そんな可愛らしいポケモンがもらえるなんて…!

「ナマエ聞いてるのか?」
『あっ…ごめん…この子が可愛くて…』
せっかく説明してくれたのに聞いていなかったことが申し訳なくて、眉を下げてダンデくんを見上げる。
そんな私に彼は、
「そんなに気に入ってくれたなら、オレも嬉しいぜ」
と優しく微笑んでくれた。この人は本当に優しい。

「だが、ナマエ。今から話すことは、出来ればしっかりきいて欲しい」
優しく微笑んでいた顔をしまい、彼は少し顔を赤らめはじめた。 

「このカジッチュには噂があるんだ」
『噂?』
「あぁ。それはだな…」
普段こんなに彼が言いよどむことがあるだろうか…?
それくらいにまで目の前の彼は何かを言おうとしてはやめてを繰り返していた。
そうしたかと思えば、突然両手で頬を叩き、よしっと呟いた。

「その噂というのが、好きな相手にカジッチュを渡して想いを伝えると、恋が成就するというものなんだぜ」
『そ、それって…』

次に彼が何を言いたいかが分からないほど、私はバカではない。
驚きと、それでも期待に満ちた表情を私はしているのだろう。

そんな私の頭だけ、逞しくそれでも優しい腕が抱き込んだ。
彼の匂いに包まれ、男らしい胸板に頭が当たる。
彼の少し早い心臓の音が聞こえてくる。

「好きだ」

そう言った彼の顔はナマエからは見えなかったがあまいりんごのように赤かったらしい。

そんな2人のやり取りを
噂の根源であるカジッチュがナマエの手の平から誇らしげに見守っていた。

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