いつもの席で微笑むキミ(ダンデ)

★名前変換なし
Twitter、pixiv掲載


もうすぐ春が来ようとしているガラル地方。
ワイルドエリアの緑も暖かな太陽の恩恵を受け、とても綺麗に輝いている。

そんなある日、オフのダンデは私服にキャップ深く被り、電車の椅子に揺られていた。



相棒のリザードンは先日のバトルで羽を痛めたらしく、暫くは飛ぶことを控えることになっており、
この天気で出かける人も多いのかアーマーガアタクシーも捕まらなかった。

迷わないようにとかなり朝早くにリザードンに駅まで送ってもらい、電車に乗る前にボールに閉まったのだが、かなり早く来すぎたらしい。
ホームには誰もいなかった。

(流石にホームで迷子にはならないぜ、リザードン…)
ボールの中でこちらの様子を見張っているであろう相棒に心の中で呟いたと同時に電車が入ってきた。

(思っていた時間より大分早いが、仕事で家を出る時間を考えると同じくらいか。早めに目的地について、ゆっくり朝食を取るのも良いだろう)

電車に乗り込むと、アーマーガアタクシーの普及や時間が早いこともあり、人はかなり僅かにしか乗っていない。これならダンデだとバレる確率は低いはずだ。

そう思いながら、適当な座席に座り込む。

(さて、どうしようか、目的の駅までは暫く時間がある。到着まで寝てしまうのもいいかもしれない)

ちょうどそのとき、ふわっと良い香りがダンデの鼻をかすめた。あまりの香りの良さに顔を上げて香りの元を探す。少し周りを見ると、ドアの横にもたれて外をみている女性が目に入った。

ドアから差し込む光に照らされた彼女の横顔はとても綺麗で、ダンデは思わず、ほんの一瞬だが思考を停止する。

いい香りの根源は彼女で、その匂いも香水などではなく、まるで日だまりに咲いた花のようだった。

(それにしても、こんなに席が空いているのに、座らないなんて変わってるんだな)

どんなに電車のスピードが早くなろうとも、彼女は座ろうとは一度もしなかった。それどころか、窓の外へ向けた目線を逸らすこともない。

(そんなに外を見るのが好きなのだろうか)

ダンデは寝ようと思っていたことも忘れ、じっと彼女を観察する。
その観察が何分ほど続いただろうか…電車がワイルドエリアの上を通過し始めたそのとき。

「っ!?」

彼女が何かをみてふっと笑ったのだ。

何に対して笑ったのか、ダンデからは分からなかったのだが、彼女が何かに対して笑ったのは確かだ。

彼女の笑った顔に息をのんだダンデは、観察していたことすら忘れてただただ彼女を凝視していたのだ。



「行こう、リザードン」
あの日からダンデは毎日電車で通勤するようになった。
勿論目立つあの服は着用せず、敢えて目立たない私服とキャップで乗車する。

どうやら彼女は毎日同じ時間に同じ電車に乗っているようだ。そして、同じ場所で、同じタイミングで必ずふっと笑うのだ。

そんな彼女を見続けて何日が続いただろう。

その日、ダンデが電車に乗り込むと、彼女の姿はなかった。

(今日はいないのか…
少し落胆はしたが、これはチャンスだぜ)

気持ちが前のめりになったダンデは、彼女が何に笑っているのか知りたくて、彼女がいつも立っているドアの窓にへばりつくようにして外を見た。

いつも笑うワイルドエリアになった時、ダンデの探求心はMAXになっていた。のだが。

「?」

特別なものは何なかった。

ただただ広がるワイルドエリアの緑に蠢く草タイプのポケモン、巣穴から出る紫の柱、池には水タイプのポケモン…特に何も変わったことなど無かったのだ。

結局彼女が何に微笑んでいたのか、わからないまま電車はシュートシティに着いてしまった。



翌日―
ダンデが電車に乗り込むと、あの位置に彼女はまた立っていた。
ダンデは座席には目もくれず、そのまま彼女の前に立った。

「ちょっといいか?」

突然知らない男に話しかけられたからか、目の前の彼女は驚いたように肩を揺らし、ダンデに目線を寄越した。

『なんでしょう…?』

(近くでみると、この子はこんなに小さかったのか。いつも座って見上げていたからか、少し大きく感じていたようだぜ…)

「キミはいつもここから何をみてるんだ?」

あまりの気持ちの高ぶりに、名前を名乗ることさえ忘れて担当直入に質問をぶつけるダンデに、腰のボールが揺れた気がした。

『何って…』

突然の質問になんて答えて良いか分からず口ごもる彼女に、もう少し丁寧な質問をしてみる。

「キミはいつも、この電車がワイルドエリアに入ると、必ず笑っているだろう?何が見えているのか気になってしまって…昨日、キミと同じ位置に立ってみたが、何も変わったことなんてないように思ったんだ」

『見て、たんですか…』
そう答える彼女は恥ずかしげに顔を外に向けた。

そのまま、『もうすぐ、ワイルドエリアです』
とダンデにも見えるように横にずれる。

そのままダンデがそのスペースに身体を入れると、ちょうどワイルドエリアに差し掛かった。

その景色は、ワイルドエリアの緑に蠢く草タイプのポケモン、巣穴から出る紫の柱、池には水タイプのポケモン…と、特に昨日と変わったことなどない。

「なぁ、特になにも…」

『アレです』
ないぜ、と言おうとしたダンデを遮り、彼女はある一点を指さした。

なんだ?と指さした方向をみると、水タイプが泳いでいる池だった。

「あの池がどうしたんだ?」
(なにも変わらないじゃないか)

失礼ながら彼女に少々がっかりすると、表情に出ていたのか、
『よく見てください』と再度指を指される。

(何が見えるっていうんだ?全く分からないぜ)

そう思いながら、しっかり目をこらしたダンデがとらえたものは、

『ギャラドスの赤ちゃんです』

そう、生まれて少し経ったくらいの赤ちゃんだったのだ。

『たまたま、仕事が憂鬱で外を眺めていたら、偶然孵化する瞬間を見まして…それから毎日あの親子を見るのが日課なんです。あの子が大人になったら、どんなに逞しくなるのだろうって考えると楽しくて。この大自然に、新しい命に…いつも感動するんです』

彼女はそう言いながら、またいつものように笑ったのだ。

(これが、彼女が見ていた風景…)

ダンデは窓に張り付くようにしながら、ギャラドスの親子を目で追う。

(そうか、ワイルドエリアとはこんな場所だったな…)

ジムチャレンジを始めた頃、ワイルドエリアの全てが美しく、輝いてみえていた。それが、いつの間にか輝いて見えなくなった。何も感じなくなっていた。

それが、大人になったということだと思っていた。

でも、彼女は違った。オレが忘れてしまったものを、心の底から綺麗だと思い眺めている。

ダンデは彼女に顔を戻すと、彼女はまだワイルドエリアを眺めて微笑んでた。

彼女のことをもっと知りたい。

「なぁ、キミ」 
ダンデの声に、ハッと気がついた彼女はダンデに視線を戻した。

『なんでしょう?』
「キミ、ワイルドエリアに行ったことはあるか?」
『ないですけど…私手持ちのポケモンがいなくて』

行ってみたいんですけどね、そう呟いた言葉をダンデは逃さなかった。
 

「今度オレと行ってみないか?」


これが、オレの恋の始まりだった。

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