息の白さは冬の冷たさ(ダンデ悲恋)

※ダンデ視点
お別れの瞬間のお話です。
(この後復縁のお話を書くか未定)


暫くすれば春が訪れる時期だが、ガラルでは春が来る直前、一気に冷え込む時がある。
その寒さを乗り切ると温かい春を迎えることが出来るのだが、その中でも今年は異様に寒いと思う。

それは、多忙で彼女と過ごす時間が減っているからかもしれないのだが…


「すっかり遅くなってしまったな…」

そう呟きながら雪が積もった街をざくざくとナマエの家を目指して歩く。

【夕方にはそっちに着けそうだ。レストランも予約済みだ!会えるのを楽しみにしてるぜ!】

彼女にそうメッセージを送り、仕事を急いで進めていたつもりだったが急遽迷い込んできた書類に手がかかり、終わらせた頃にはアーマーガアタクシーが深夜料金に切り替わる頃だった。
夜も遅く、こんな雪だからか人影は一切ない。

つい先ほど送った【遅くなった…急いで行く…!レストランではなく、バーに予約を変更してもいいだろうか?】このメッセージに返事はない。
既読は着いているのだが…


ナマエとつきあい始めてもう数年になる。
チャンピオンである時からずっと支えてくれたナマエ。

例えどんなに会える時間が少なかったとしても、一度も文句を言われたことはない。
オレとしては多少のわがままも言ってほしいところだったが、『むしろ忙しいのにありがとね』と気遣ってくれていた。

バトルタワーのオーナーになってから早1年。軌道に乗ってきたバトルタワーでの仕事は思っていたよりハードでナマエと会える日は更に減った。
せっかくのオフを2人で過ごしていても、緊急の呼び出しなんてしょっちゅうだった。

オレとしては勿論仕事も大事だが、彼女のことも大切にしたい。あと半年もすれば、オーナー業も少しは落ち着くだろうか…

その時にはナマエに結婚の申し出をしたい。それから、長期休暇を取って、2人で他地方に行ってみるのも良いな。


将来への理想を思い描きながら歩いていたら、あっという間にナマエの家に到着した。

やっとナマエに会える、そう思ってインターホンを鳴らす。

一分一秒でも早くナマエに会いたい。ナマエが出てくる前にこちらからドアを開けてしまいたい気持ちをグッと押さえ込みながら、会いたくて仕方ない彼女がドアを開けるのを待った。

ガチャッと鍵が回る音がして、ドアの隙間から部屋の明かりが漏れた。ドアが開くと、コートにマフラーをしたナマエが立っていて、その姿はずっとコートを着たまま待っててくれたのか頬が少し赤くなっている。
オレは堪らずナマエを強く抱きしめた。

「遅くなって本当に悪かった…!」
『ううん、大丈夫だよ。お仕事お疲れ様』

「あぁ…!さ、これ以上遅くなる前に食事に行こう。レストランはもうすぐ閉まるから行けないが、あそこのバーだったらある程度の食事もとれるぜ!」

抱きしめていた腕を少しだけ緩めながら彼女の顔を見ると、その瞳は左斜め下をみていて、
何かあるのだろうかと見てみるが特に何も変わったこところはない。

「ナマエ?しんどいのか?」
『そんなことないよ』

なんとなくだが、ナマエの雰囲気が違う気がする…
そう思いながら、オレはナマエの手をひきながら家を出た。


道中、歩きながらオレは沢山の話をした。
最近のバトルタワーでの仕事のこと、どんどん訪れる沢山のトレーナーのこと、シュートシティではこんなものが流行っている等々…
話したい話題は尽きることはなかった。

それは、相槌をうってくれているナマエが俯き加減な事を打ち消すかのようでもあったのだが。

「それで、この間ギルガルドが、」
『ダンデくん』

オレが手持ちのポケモン達の話をしようと思った時、今まで相槌だけだったナマエが不意に足を止め、オレの名前を呼んだ。

「ナマエ?」

不意に足を止めたナマエの正面に立ち、周りを見渡せばそこはオレが彼女に告白した公園だった。あの日も今日みたいに寒い日だったと目を閉じれば記憶が鮮明に蘇る。
彼女も何か思ったのか?

「ナマエ、どうしたんだ?」

夜の公園は誰も通っていないのだろう、雪の上にはオレ達の足跡のみ残されていて、そこを除けば360度雪だらけだ。

街灯の白い明かりが雪を更に煌めかせ、白銀世界を作り上げている。そんな美しい空間にナマエとオレの二人きりで、ナマエの口から何が発せられるのか…
そう思い、ナマエを見下ろす。

するとナマエは白い息を震わせながら、

『別れたいの』

とたった一言だけ言葉を発した。

予想していなかった言葉に頭を殴られたような衝撃を受け、全身から一気に血がひいたのか身体が凍るほど寒くなった気がする。

身体と共に頭も凍ったのか、返すための言葉を探すことすら出来ない。
オレは、今何を言われたんだ…?

全く飲み込めない状況、いや飲み込みたくない状況に、ただ、時が止ったかのように彼女を見つめることしか出来なかった。


その原因を作った彼女は、今も震えながら真っ白な息を吐いていて…

こんなに寒いなら今日は出かけずに、家で2人で過ごせば良かったな。
なんてどこか他人事のような、見当違いなことが浮かんでくる。

彼女が震えながら、白い吐息と共に吐き出した言葉も、
自分の固まってしまった思考回路も、
全て冬の冷たさのせいだと思いたかった。

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