こんな相手は初めてだ!(アニメダンデ)

アニメダンデで傲慢な感じです。
ワタルさんの妹設定
恋愛になる前の出会いのお話
付き合うまでのお話を中編で書くか検討中


「感じているか?ワタル。このバトルフィールドに張り詰めた空気。それとは真逆の観客の熱狂。どちらも最高じゃないか?」

そう言ったオレは観客席をチラリと見た。世界最強を決めるこの試合に皆ワクワクしているようで、その目差しはとても熱い。だが彼らは、オレたちのどちらかが敗けることを願う人々だ。

どちらかが勝って、どちらかが敗ける。そのスリルを感じながら観客の熱狂を浴び、勝利を掴みとる。そう考えるとオレは更に興奮し、言葉を続けた。

「オレは無敵であるために、あらゆる勝負から学ぶ。この勝負!いや、勝利からも…!」

そう言い切ったオレに、ふと招待者席が目に入った。
そこに座る殆どの人がこれから始まるバトルに目を輝かせているのだが、1人だけ何故かムッとした顔でオレを睨んでいる女性がいた。
歳はオレと変わらないくらいか、少し下か…何故ムッとしているかは分からないが、オレのチャンピオンタイムを見れば笑顔に変わるだろう。

所定位置に立つと、バトルが始まった。


バトルは白熱。観客たちも立ち上がり、拳を振り上げながら歓声をあげていて誰一人として熱狂していないものなどいない。

これこそガラルのチャンピオンであるため、人を湧かせるためにパフォーマンス性をも磨いたオレのスタジアム用の戦い方。本当のオレのバトルスタイルは別にあるが、そっちは複雑かつチャンピオンらしくなく、観客にはウケないためキバナとプライベートで試合をする時にしか使わない。


バトルはダイマックスバトルには入っていた。

「水タイプのダイマックス技か。キミたちなら当然の攻撃だ」
そう自信気に言ったオレはリザードンにダイサンダーの指示を出す。その時、先ほどの招待者席が目に入った。
ダイマックスバトルにより、招待者席の人ですら一部は立ち上がり、一部は座ったままでも拳を握って座っていて、オレはその温度に口角があがるのが分かったが、その次の瞬間、スッと熱が少し下がった。

先ほどの女性は熱狂するどころか冷めているようだった。足と腕を組んだまま座り、先ほどよりも露骨に眉間にシワをよせ、こちらを睨んでいる。こんなに面白い試合なのに、何故そんなに楽しくなさそうなのか…常に人々の人望や憧れの視線を浴びてきたオレにとって、全く理解できなかった。

勝負が終わった時、もう一度招待者席に目を向けると、そこには勝負がついてワァァァッと盛り上がっている人しかおらず、その女性はもういなかった。


ーーーーー
「ほんとっ!!なんなの、あのダンデってやつ…!!」

バトルの決着がついた瞬間ナマエは招待者席を立ち、スタジアムの関係者通路を早足に歩く。

ここのスタジアムはどこの地方よりも立派で、かつダイマックスできるよう莫大な土地を使って建てているからか、反対側までいくのにとんでもない時間がかかる。選手控え室はちょうど反対側。つまり、長距離を歩かなければならないわけで…幸い、関係者通路を通ることが許可されているので人混みに紛れることはない。

あの興奮が冷めていない観客の人波に流されると思うと、申し訳ないがゾッとした。

関係者通路は限られた人しか入ることは許されていない。ナマエは規定場所で通行用のカードをリーグスタッフに見せる。

「お疲れ様です!ワタルさん、残念でしたね。でもとてもかっこよかったです」
『ありがとうございます』

そう、何を隠そう私はワタルさんの妹なのだ。

妹と言っても、血のつながりはない。
私が子供の頃に某悪の組織がポケモンたちを凶暴化させて、襲ってきたのだ。その一撃で両親は私を庇って帰らぬ人となり、次は私の番で死んじゃうんだと身を竦ませた時、どこからかはかいこうせんが飛んできた。

目の前にいたポケモンたちは戦闘不能のなっており、某悪の組織はジュンサーさんによって取り締まられていた。「大丈夫か…?」そういって腰の抜けてしまった私に手を差し出してくれたのはカイリューと若かりし頃のワタルさんだったのだ。

それから私はワタルさんの妹になり、どこに行くにもワタルさんと一緒だった。
ポケモンを持っていなかった私にワタルさんは一つのたまごをくれた。「このポケモンと一緒にキミが強く育っていくのが楽しみだ。この子と共に強くなれ」そう言いながら、力強い手で私の頭を撫でてくれた時のことは忘れない。
助けてくれたあの日から、私にとってワタルさんは恩人であり、兄であり、憧れでもあったのだ。

関係者通路奥の、ポケモンも出して良いエリアまで入ったので、ボールからワタルさんから貰った相棒と自分で捕まえて育てたポケモンを出す。現れたのはピンク色のハクリューとサザンドラだった。

『ねぇ、ハクリュー、サザンドラ、さっきのバトル見てた?』
「クリュ」
「ドーラッ!」
『あれ、酷かったよね?あのダンデってチャンピオン、なんであんなに傲慢なの!?ワタルさんのこと、ワタルって呼び捨てにして…ワタル「さん」をつけろってのっ!!!』
「クリュー!」
「ドラッ!」

そうだそうだと言わんばかりにハクリューが大きな声で鳴いた。この子はワタルさんから貰ったたまごから生まれた子だから、私と同じ気持ちらしい。サザンドラは私が自分で捕まえて育てた子だからか、私の気持ちと同調している。

結論、私たちは全員ダンデが嫌いになったのだ。ガラルでは有名人気チャンピオンらしいが、ワタルさんに憧れを抱いている私からすると、大いに意義ありなのだ。

「しかも、途中でのワタルさんを煽るあの感じっ…!ワタルさんを煽るなんてっ…!絶対に許さないんだからっ…!」

遙か遠くの向かいの出口から、人が数人わらわらと入ってきた。ドアを開けた時にワァァァッという歓声が聞こえたから、恐らくスタジアム内に通じるドアだったのだろう。気にもとめずワタルさんの控え室を目刺し、どんどん歩いて進むとドアから入ってきた人たちの顔が分かるようになった。

その中で目立つマントを羽織った紫ヘアーと、オレンジ色のシルエット。
(ダンデとリザードン…!!)
先ほどまで相棒たちと話題にしていた大嫌いなダンデだった。

だが、ここで騒ぐような私ではない、が、大人しくする性格でもない。ダンデは私を見て一瞬目を見開いたが、私は一切気にせず通り過ぎる。

その瞬間、思いっきり睨み付けてやった。恐らく私の相棒たちも真似をしているのだろう、後ろでリーグスタッフが「ひっ!」と声を上げるのが分かった。ハクリューが睨んでも凄みはないのだろうが…あのサザンドラに睨まれた本当に蛇に睨まれた蛙の気持ちが体感できるだろう。…ごめんなさい、リーグスタッフの方。

そのまま通り過ぎたとき、不意に「キミっ!」と手を捕まれた。

「グルルァァァッ!!」
「クリュゥゥゥッ!!」

その瞬間サザンドラとハクリューが激しく唸り、手を掴んだ相手の方へ身体を翻した。サザンドラなんて今にも噛み付かん勢いだ。

「バキュァァァァ!」

それに呼応するかのように、オレンジが飛び出してきた。ダンデのリザードンだ。一触即発の緊張感が走る。

『私になんのご用でしょうか、チャンピオン?』
淡々と、だがそっと手を外しながら、手を掴んできた相手に振り返る。

「へぇ…キミのポケモンはハクリューとサザンドラか…いいねぇ」
そこには不適な笑みを浮かべたダンデの姿があった。

『あまり人のポケモンをじろじろと品定めしないでいただけますか?』
「いや、いい育て方をしているようだと思ってね」

『ありがとうございます』
ワタルさんからアドバイスを貰って、特訓までしてもらっているんですから当たり前ですよと言いたい気持ちをグッと飲み込む。

『それで、なんのご用件でしょうか?』

まさか、この男が私のポケモンを見て声をかけてきたとは思いにくい。強いポケモンなんて沢山みてきたはずなのだから。

「その前に、ポケモンたちの警戒を解いてもらえないだろうか?」
そう少し微笑みを浮かべちょっと困ったような表情を浮かべるダンデだが、私にはその笑顔すら胡散臭く感じるのだ。

「じゃないと、今にもバトルしたくなってしまうからね」

そう言ったダンデの瞳にチラッといや、かなり好戦的な炎が揺らめいたのを私は見逃さなかった。この人、ただのバトル狂?

『分かりました。ハクリュー、サザンドラ、ありがとう』

主人の言葉を聞いたサザンドラとハクリューは唸っていたのをやめた。だが私がまだダンデに警戒しているのが分かるのか、体勢は通常の体勢に戻ったのだが、その目はまだダンデとリザードンを睨んだままだ。

『それで、再三聞きますが、何のご用でしょう?』

私がポケモンの警戒を解いてしまったのが悔しいのか、少しだけ切なそうな顔をしたダンデに、本当にバトルしたかっただけ?と思ったのだが、ちゃんと用件があったらしい。

「いや、大した話じゃないんだ。少し聞きたいことがあってね」

そう言いながらダンデは私の方に一歩近づく。

「キミはさっきの試合、特別招待者席で見ていただろう?その時、何を考えていた?なんであんなにつまらなさそうだったんだ?なんでオレの事を親の敵のような目で見ていたんだ?―…つい今すれ違う時も」
「!?」

耳元で囁かれた私はバッとその場を飛び退いた。耳元に残る嫌いなダンデの声が怖くて本人がいるのも気にせず、思いっきり耳を擦ってしまう。

「どうやらオレは嫌われているようだ。ここまで人に嫌われるのは初めてかもしれない。オレはキミになにかしてしまったんだろうか?」
『それは…』


「ナマエ!探したぞ!こんなところで何を…ってキミも一緒だったのか、ダンデ」
ちょうど私が歩いてきた方角から名前を呼ばれる。長年聞いている馴染みの声に私は喜んで振り返った。

『ワタルさんっ!!』

「探したぞ。念のため招待席に迎えに行ったんだが入れ違いになったようだな」
『そうだったんですね!?決着ついてすぐに出ちゃったから…』

このダンデのワタルさんへの態度に腹が立って、さらに負けてしまったことに悔しさが募り、席を立ったとは当然ながら言えなかった。

「それで、こんなところで何をしているんだ?」

はっとナマエは辺りを見回した。
周りにはスタッフやマクロコスモスの人たちがハラハラと見守っている。
それもそうだろう、あのチャンピオンダンデと一人の女が通路の真ん中で険悪なムードなのだ。しかもお互いのポケモン同士が睨め合っているとなると尚更だ。

「ワタル、お疲れ様」
「あぁ、キミこそお疲れ様」

試合終了後、裏ではあっていなかったのか、二人はとてもいい笑顔で握手をしていて、ワタルさんはダンデの態度に腹が立ったりしていないのだろうかと胸がもやもやする。

「ところで、そちらのお嬢さんはワタルの連れか?」
「あぁ、彼女はオレの妹でね、ナマエと言うんだ。とは言っても血のつながりはないんだけどね」

そう言いワタルさんは私の肩をグイッと引き寄せた。

「それで、ナマエは彼と何を話していたんだ?」
『…特に何も…』

ワタルさんと会ったら真っ先にお疲れ様と伝え、そのあと試合の感想を話すはずだったのに、なんでこんな風になっちゃったの…それもこれも、このダンデという男が話しかけてきたからだ…!再度、睨みたくなる気持ちを抑え、そっぽを向く。

「ナマエがそういうときは何も無いわけが無いときだ」
「すまない、オレが話しかけたんだ」

助け船を出したのは、思いも寄らないダンデだった。

「キミが?」
「あぁ。さっきの試合で彼女だけが退屈そうでね、気になって聞いてみたんだ。なにがそんなにつまらなかったのか」

そう私を見るダンデは、まるで私を煽っているかのような言い方をする。いちいち勘に障る…!!

「ナマエ、そうだったのか?オレと彼の試合はつまらなかったのか…?」
『ワタルさん、違う!ワタルさんはかっこよかったし、ギャラドスも凄く頑張ってた!』
「じゃぁなんでそんなにつまらなさそうだったんだ?」
『それは…』

言おうか悩んで口ごもってしまう。こんなことを言ったら、ワタルさんは呆れていまうだろうか…

「なるほど、そうだったのか」

間に割って入ってきたのはダンデだった。彼はまた私が苛立つような口調で言葉を連ねていく。

「キミは兄であるワタルが負けそうだったからつまらなかったんだね?」

なっ、この男…!
いい加減の私も流石にカッと頭に血が上った。

『違います!!!適当なことを言わないでください!あなたの、あなたのそういう傲慢なところや、人の精神を逆立てるような言い方が気にくわないんです!!!バトル中だってそう!ワタルさんは真剣にバトルしているのに、あなたはヘラヘラして…

ワタルさんはあなたと違って大人だから乗らなかったけど、煽るような態度…!まるで観客を湧かせるためのパフォーマンスをしているよう…!!ワタルさんに失礼だと思わないんですか!?』

怒りに任せて一息に言い切ったからかフーッフーッと肩で息をつく。その姿は周りからみると、まるで威嚇しているチョロネコみたいかもしれないが、それでも私は怒っていたのだ。

「ナマエ」
『………』

気まずい空気が流れる中、声をあげたのはワタルさんだった。

「ナマエ、彼に謝りなさい」
『!?なんでですか!?』

「彼は彼のバトルスタイルがある。彼だけではない、様々なトレーナーがいるように、様々なバトルスタイルがある。相手のトレーナーを惑わせ、不意をついたり、相手の戦略を崩すことも一つの手だ。それは誰も口出しするようなことではない。それに、一度も戦ったことはなく、ただスタジアムの中で見た印象だけで、人を責めるのはよくない。それはあまりに子供じみているんじゃないのか?」

『…………』
ワタルさんの言うことは全くもってその通りだ。私にはぐうの音も出せない…
ただ俯くことしか出来ず、とても情けない気持ちになった。

「いや、謝る必要はないさ」
私の落ちていく気持ちを断ち切らせたのは、それまで一言も発することの無かったチャンピオンだった。

「謝る必要はないが、ワタル。この子を暫く貸してくれないか?」

「……え?」
『……はい?』


ーーーーー
関係者通路に入ったオレは小さくため息をついた。
スタジアムの歓声が降り注ぐ中、先ほどの女性はと客席をぐるりと見回しても見つからなかった。
もう帰ってしまったのだろうか。一度話してみたい思っていたが…

そう肩を落として振り返ったとき、色違いのハクリューととても強そうなサザンドラを連れて歩いている人物がいた。よく目をこらすと、先ほどまで探していた彼女であった。
こんなところで会えるとは…!

声をかけようと思ったその時、彼女は凍り付くかのようにこちらを睨み付けたのだ。まるで彼女がポケモンかのような睨みに、オレは一瞬動けなかった。
彼女が通り過ぎてから、このままじゃダメだと思い急いで手を掴むと、彼女のポケモンが襲いかかるような勢い振り向いた。

まわりからちょっとした悲鳴があがった気もするが、あの時のオレは危機感よりも全身の血が沸騰するような高揚感で染まっていた。

なんだこの2匹は…!今にも人を襲いそうで、とても強そうだ。この2匹とバトルしたい…!そして、こんな2匹を育てあげ、チャンピオンであるオレに全く目もくれない彼女はどんな人物なんだろうか…!

興味だけが先走ってしまい、オレは我も忘れて本能のままに彼女に問い詰めた。
「いや、大したことじゃないんだ。少し聞きたいことがあってね」
それを皮切りにじわじわと彼女を追い詰める。まるで獲物を刈る肉食獣だななんて頭のどこかで自分が呟いた気がした。


その後、ワタルの妹と発覚し、彼女からオレへの罵声が放たれたとき、オレは頭が殴られたような気がした。
彼女、あのバトルスタイルが嫌いなのか?というより、今のオレが嫌いなのか…?

いつだって皆のヒーローダンデであるために、観客を湧かせるエンターテイナーになるために、必死で努力してきた。使いたい技も使わず、相手を煽り、そして叩き潰す。

そこには勝つための細かい計算や知識など必要なかった。
ただ、派手な技を披露し、観客が楽しめそうな言葉を発する。役者のような気分で窮屈さを感じることも多かった。

本当にやりたいバトルのスタイルはガラルの人にはあまりウケることはなかった。もちろん素のオレも、皆ヒーローなんかじゃなくて…もっと普通の人間だ。
オレという人間はどちらかと言うと、ガラルでウケることのないバトルスタイルとどこか似ていて、そのスタイルを辞めたと同時に自分の性格にも蓋をしたのだ。

それなのに彼女は今のスタイルや今のオレが嫌いだという。

もしかして、彼女になら…彼女だったら……

素のオレをさらけ出してもいいのかもしれない。
バトルのスタイルも、オレという人格も。


そう思ったらもう止らなかった。気がつけばオレは

「この子を暫く貸してくれないか?」

「……え?」
『……は?』
と相談を持ちかけていたのだ。

ワタルもナマエもポカンとしていたのだが、ナマエの方が先に言っていることを理解したようで、

『何言ってるんですか?』
顔を引きつらせながらこちらを見た。

「何ってそのままの意味だよ。確かキミたちは数ヶ月ほどガラルに滞在するんだったはず」
『そうですけど…』
「ならその間暫くはオレと共に行動して欲しい」
『はい!?!?嫌です!絶対お断りします!!』

何を言っているんだこの男は!?とでも言いたげな顔で必死に拒絶するナマエ。

「それは何故だろう?」
『私が嫌だからに決まってます!なんでせっかくのガラルライフを嫌いな人と過ごさなきゃいきないんですか!?』
「ハッキリ嫌いと言われるのも辛いものがあるな」
『ハッキリ簡潔に言うと、大嫌いです』
「ハハハッそんなにしっかり言われると、ますます本気でいきたくなる」

そう作り上げた笑顔で迫っていくと、彼女は思いっきりオレを突き飛ばしたあと、オレと話していても無駄だったのか嫌が募り過ぎたのか、一気に走り出した。

『その胡散臭い笑顔も嫌いなんです!ワタルさん、私先にホテル戻ってますから!!』

出口へと向かっていく彼女を追いかけるため、サザンドラが羽ばたき始めた。室内だからか控えめな羽ばたきの間から殺意のこもった視線を貰う。先ほどと同じゾクゾクとしたような感覚がわき上がり、
「また会おう」と不敵に笑えば、2匹とも不満な気持ちをありったけ込めた鳴き声をオレに浴びせて去って行った。

そしてオレは先ほどから一度も言葉を発さず、顎に手を当てたままの彼に目をやる。


「さて、ワタル。さっきからキミは何を考えてるんだ?」



―翌朝―
シュートシティにある高級ホテル最上階のスイートルーム。部屋は3部屋、なんとリビング付きだ。おまけにシュートシティや雪山が見ながらくつろげるガラス張りのお風呂まである。

そんなスイートルームの一室のベッドでナマエは目が覚めた。まだ眠たく、カーテンの隙間から漏れる朝日が眩しくて布団の奥に潜り込みながら昨日の出来事を思い返す。

昨日は…あのあと、ホテルに帰ってきてから、ワタルさんから着信があって…ご飯を食べて帰るから遅くなるって言われて、先に寝たんだっけ……

あのダンデさえ変なことを言い出さなければ、ワタルさんと一緒に帰ってきてご飯を食べながら試合のことについて熱く語るはずだったのに…

そもそも、貸すってどういうこと?私は物じゃないんですけど!どこまでも食えない人だ。

そう思いながら寝返りをうったとき、ふわっとコーヒーの香りがした。

ワタルさん、昨日遅かったのに早起きだな…ならば私も起きようと思い、まだ重たい身体を起こす。
部屋の鏡台で髪をとかしてから部屋のドアを開け、隣り合っているリビングに足をいれた。

格式高いレトロなリビングには高そうな家具が並んでいて、壁一面にかかったカーテンは全て開けられている。その窓からはお風呂と同じでシュートシティや雪の積もった道や山が一望でき、これだけでこの部屋の凄さが分かる。

今回の主催者であったローズさんが抑えてくれたらしい。感謝をしてもしても足りない気がする程に素敵だ。

テレビ、ソファの奥には更にダイニングテーブルがあり、その横にはキッチン。

ワタルさんはここに泊まってから毎朝コーヒーメーカーでブラックコーヒーを淹れて飲むのが日課だ。とても美味しいと言っていたからお気に入りなんだと思う。
今も香ばしい香りがしているから、きっとコーヒーを飲んでいるのだろう。

『おはようございます、ワタルさん』
「やぁ、おはよう」

………

『………え?』
これはまだ私は寝ぼけている……?

ワタルさんがいつも座っている席には誰もおらず、ダイニングテーブルから斜め辺りに置かれた一人がけソファから聞き慣れない声がし、ナマエは息を止めた。

その人物は優雅に足を組み、片手にはティーカップ、片手には新聞を持ちながら、こちらに声をかけた。

『なんでいるんですか?』
「何故ってワタルから、今日はキミとガラル観光を行ってほしいって頼まれてね?」

少し顎を引いたあの不敵な笑みを浮かべながら、その人物のダンデは新聞紙をテーブルに置いた。

『今日はってなんですか?それにあなたに案内されるくらいでしたら、私は一日引きこもってるので、お構いなく』

そう言い切って部屋に戻ろうとした私を不吉な言葉が呼び止めた。

「それは良かった。ワタルはキミが案内に行かないなら、オレにずっとここに居座ってもらっていいって言ってたんだ」

それじゃあもう私のとれる行動なんて決まったも同然じゃない…!

『………仕度してきます…』

苦虫をかみつぶしたような表情で、今度こそ部屋に戻る。

閉める直前に、待ってるぜなんて余裕の笑顔でコーヒーカップを傾けるダンデが視界に入った。
こうやってみれば、この格式高い部屋に一人がけの言え立派なソファで足を組み、優雅にコーヒーを飲む姿は正に王様のようで。

それすら腹立たしく、少し乱暴にドアをしめ、つい先ほど座った鏡台にバンッと手をついた。



「ガラルの人気者であるオレをここまで毛嫌いするなんて…」
『ここまで強引で傲慢で横暴だなんて……!』


「『こんな相手は初めてだ!!!』」



ーなんだかんだで数ヶ月後ー
「ワタル、ナマエをこのまま貰ってもいいだろうか?」
「貸してもいいとは言ったが、あげるのは許可してないなぁ?」
というやり取りがあったのは別のお話。


ーカットした本編続き。観光お昼ー
「1つ寄りたいところがあるんだが、いいか?」
『...どこでしょうか?』
「若きトレーナーの可能性をみたくないか?」

そういって連れてこられたのは、他地方から来たと言うサトシ君とゴウ君のもとだった。

サトシ君はダンデに憧れているらしく、ダンデが来た瞬間に目を輝かせていた。

そんなサトシ君に、
「少年の夢を、叶えたいと思ってね」
なんて言うものだから、サトシ君はメロメロになってしまった。

この男はこうやって人を惚れさせているのか!でも私は騙されない!目を覚まして少年!この人はただのバトル狂だよ!!そしてガツンと倒しちゃって!!

私は心の中で叫んでいたのだ。
★ブラウザバック推奨
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