『あなた、誰?』
小さな声だったはずなのに、彼女の声は透き通るようで、スッとキバナの耳に入ってきた。
「お前こそ、何やってんだよ?そんなずぶ濡れで…」
言いかけてハッとした。
まさか、あの豪雨の中で見えたような人影は気のせいじゃなくて…
「お前まさか、さっきの豪雨の中…」
彼女の全身をみて察する。
―ぎゃうぅぅぅぅ!―
突然彼女の前にいたギャラドスがうなり始めた。
「あぁ、ごめんね。あとはこの塗り薬を塗ってこれ食べたら終わるからね」
―グルルルルルー
そういうとギャラドスは少し不満そうだが、大人しくなる。不思議な少女は、マンタインに置いた自分のリュックから、塗り薬とスティック状のなにかを取り出した。
「ちょっと痛いかもしれないけど、大丈夫だからね。我慢できる?ギャラドス」
―グルルルルル…―
「うん、頑張ろうね」
ふんわりギャラドスに笑いかけた少女は、手にした塗り薬をギャラドスに塗り始めた。不思議なものでギャラドスは何も言わずじっとしている。塗り薬を塗られているギャラドスは彼女を見下ろしていて、小さな彼女なんて一飲みで食べられてしまいそうだ。
「はい、出来た。ギャラドス、偉かったね」
ギャラドスの体を笑顔で撫でる彼女。
「どう?もう痛くない?」
―ギャウゥゥゥ!!―
「良かった。あとはこれだけ食べたらおしまいだよ」
そう言うと、彼女はスティックタイプの何かから、キューブ型の物体を手のひらに乗せ、あろうことかギャラドスに差し出した。
ただ呆然とみているしかなかったキバナはハラハラした。
(野生のギャラドスだぞ!?そのまま食われたらどうすんだ!?)
(ナックラーで太刀打ちできるか…!?いやでも…)
そんなキバナの心配なんて露知らず、
彼女はギャラドスの口元に少しでも近くなるよう更に手を伸ばす。
(あぁ…もう、くそっ!!見てられねぇ…)
心配に耐えられなくなったキバナはナックラーに声をかけようとしたその時、
―ギャウー
ギャラドスが短く鳴き頭を下げ、彼女の手を傷つけないよう、差し出された固形物をそっと食べたのだ。
あの凶悪ポケモン、しかも野生のギャラドスが、こんなに少女の言葉を聞いて、こんなに彼女に気遣うだろうか…
キバナには信じられない光景だった。
「偉かったね。これでもう大丈夫だからね」
そうギャラドスの顔を優しくなで、額を合わせた彼女の顔はとても優しいものであった。
その光景にキバナはただただ呆気にとられ、
そして、ただただ見惚れるしかなかったのだ。
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