11.見果てた夢の残骸

★ナマエ視点

ー明日、彼氏とテーマパークなんだろ?気をつけて行って来るんだぞー
―ホップは心配性だなあ笑 でもありがとー
―楽しんでこいよ!―

寝る前にホップから来たメールにほっこりしてから眠ったはずなのに。
何でこんなことになってるんだろう。


私が目を覚ました時、外は薄暗かったが隣の部屋からは物音がしてきた。彼も起きて仕度をしているのだろう。

私も、すぐにベッドから起き上がり、今日はあのテーマパークに行ける!!と少しばかり高鳴った胸を押さえて仕度を始めた。

それなりに可愛い服を選んで、メイクもばっちり!髪を久しぶりに巻いてみるか悩んだが、どうせアトラクションに乗ったらとれてしまうだろうと思い、髪は普段通りにした。そして全身を確認し、完璧!と自画自賛をしながら部屋を出る。

すると彼は既に玄関のドアに手をかけていた。
お洒落に着飾り、ヘアセットもしっかりした彼は靴まで履いていて、あとはドアを開けるだけの状態。

『ちょっと待って!今降りるから!』

声をかけ、駆け下りるようにして彼の前においてあった靴に手を伸ばす。この靴なら多少歩いても平気だろう。
靴を足下にたぐり寄せ、足を通そうとしゃがみ込んだ途端、頭上から冷たい声が降ってきた。

「なに、お前そんなお洒落して、どっかいくの?」
『え…?』

思わぬ言葉に驚いて彼の顔を見上げると、そこには冷めたような目をして見下ろす彼がいて、私の身体からサッと熱が引く感覚がした。

『え、だって今日…』
「今日、何?」

震える足を押さえながら、立ち上がって彼をみる。まだ靴は履いておらず、玄関と廊下の境目は一段上がっているので私と彼の目線はピッタリと合った。

『…今日、私と一緒にテーマパークに行くって約束したよね?』

足だけではなく声まで震えているのは、悔しいからか悲しいからなのか…
彼が発する次の一言にドキドキしながら、返答を待つ。
これ以上私の気持ちを踏みにじらないでと願ったのだが、その気持ちすら虚しく…

「あー、アレって今日だったのか。俺今から仕事だから無理だわ」

その言葉を聞いた瞬間、カッと頭に血が上るのが分かり、ポケットの中にしまっていたスマホロトムを呼び出した。

『ロトム、テーマパークに行こうって送られてきたメール出してくれる?』

呼び出されたスマホロトムはこの空気に、該当するメールを出すかどうするか、ふわふわと身体を彷徨わせながら悩んでいたが、主人の指示に従い、彼からのメール画面を引っ張り出した。

『これ、見てよ。アナタが行こうって、チケット取ったって言ったんじゃない!』

メール画面を彼の顔の前に突きつけながら、裸足のまま玄関に降りる。そのままスタスタと彼に詰め寄った。

『自分から約束しておきながら、忘れてたってどういうこと?本っ当、信じられないよ!』

ナマエの剣幕に呆気にとられていた彼だったが、ただただ圧倒されているだけの男ではない。これくらいで圧倒されるくらいなら、ナマエが上手く言いくるめられ、ここまでずるずると別れられないままなんて無かっただろう。

ほんの僅かでも呆気にとられたのが悔しかったのか、彼も顔を赤くしながら怒鳴り始めた。

「俺だって忙しいんだ!!お前みたいに暇じゃないんだ!!!」
『私から仕事も家も全部取り上げたのはアナタでしょ!?私だって好きで暇してるんじゃない!』

「はいはいそーですか!」
『何その態度!!!今回約束してた私に対して申し訳ないとか思わないの!?私、テーマパークいけるの、楽しみにしてたんだよ!?』

「俺とテーマパークにいくのが楽しみじゃなく、テーマパークが楽しみなのかよ…」
小声で何かを呟いた彼の言葉は、あまりに小さすぎてナマエの耳にはよく聞き取れなかった。

『何?言いたいことがあるならハッキリ言ってよ』
「っ!!!ナマエ、お前…!!そんなに行きたいなら一人で行けよ!!」

そう言った彼は鞄の中からペアチケットを掴んだかと思うと思いっきり引き裂き、ナマエに向かって投げつけた。投げつけられたチケットはナマエの顔に当たり、ひらひらと舞いながら地面へと落ちていく。

何が起こったのか分からなかったナマエが、今度は呆気にとられる番だった。
ナマエは落ちていったペアチケットをゆっくり見た。

何それ…

仕事なのは仕方ないけど、私には何の謝罪もないの…?

ただただ寂しそうに床に落ちているチケットを見つめていると、突然吹いた風に再びチケットは宙へ舞った。

「俺今日帰らないから」

バタンッ

そう言い残し、彼は扉をしめて居なくなってしまった。

カサッ

静まり返った空間に、紙が落ちた音がやたら大きく響いた。



どれくらいチケットを眺めながら突っ立っていたのか分からないが、薄暗かった外が明るくなっているのは確かだ。

外から聞こえてくるウールーの鳴き声を聞いた途端、スッと自分の中に現状が入ってきたのが分かった。

そのまま床に落ちたペアチケットを拾い上げる。有効期限は本日のみ。

一番楽しみにしていた、期間限定のショーは最低2人いないとチケットがあったとしても中には入れず、観ることは出来ないようだ。

その事実にため息をつくが、他のショーは観れるらしいし、アトラクションだって乗れる。

感想を言い合える人がいないのは悲しいが、しっかりお洒落も化粧もしたのに、このまま家に引きこもるなんてバカらしいじゃないか。

それならば、と先ほど無駄になってしまった靴に足を入れ、壁にかかっていた鏡を振り返る。

うん、大丈夫。どこも変なところなんてない。
少々顔色が悪いような気もするけど、最近ずっとこんな感じだから大丈夫かな。

そういえば、と鏡の中の自分を暫く見つめてみる。
その後、ホップの真似をしてパシパシッと両手で自分の頬を叩き、笑顔を作った。

完璧。さぁ、行こう。
先ほど彼が触れて出て行ったであろうドアノブの一部を握らないようにしてナマエは外へと踏み出した。

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