13.2人を何かに例えるならば

★末尾に絵師様に依頼した夢主(顔ぼかし)×ホップのイラストあり(苦手な方はご注意下さい)

ナマエ視点
ホップの優しい気遣いで、彼とは数本後の電車に乗った私。

ホップには感謝してもし尽せない程、お世話になっている気がする…いつかお返ししなきゃ、と心に誓い比較的空いている車両の二人掛け座席に座った。ここから到着までまだ暫くかかる。
私は座席に座るとロトムにお願いしてパーク内のマップや本日のショースケジュールを出してもらった。

横を見れば、ホップも同じようにスマホを見ていて、その画面をチラリと覗き見るとパーク関連のSNSをチェックしているようだ。

私と同じでホップも楽しみなのかと思うと、なんだか嬉しい気持ちになってきて、ホップにも楽しんでもらいたい!と効率よく回れるようショースケジュールを確認する。
さて、どこから行こうか…

「ナマエ、どこ行きたいんだ?」
その声と共に私たちの肩同士が触れた。
ホップが肩を寄せて私のスマホを覗き込んできたのだ。

『ホップ。SNSのチェックは済んだの?何か気になるものあった?』
「み、みてたのか…!」
SNSのことを問えば、ホップは少し慌てたように私の方へと視線を移した。その顔が少し赤いのはさっき飲んだコーヒーのせい…?

「い、いや…!楽しそうだなと思ってみてただけだ…!」
『ここ、本当に人気らしいし、楽しみだね』
「ナマエこそ、行きたい場所…って言ってもナマエの場合は全部か」
ホップはそう言って笑い始める。

『そうなんだよねぇ…全部行きたいんだけど流石に一日じゃきついかなぁって思って』
「はははっ、そうだよな。流石にこの広さは難しいと思うぞ。でも行けるところは全部いこう。今日は一緒に思いっきり楽しむぞ!」

そう言ってくれたホップは本当に優しい。きっと私のここ暫くの事の気分転換をさせようとしてくれているのだろう。それが私にとって何より温かく感じた。


そのあと二人で、このアトラクションはどうだ、このパレードが、なんて話し合っているうちにあっという間にテーマパークに到着する。電車での移動がこんなに短いと感じたのははじめてかもしれない。

『ついたーーーーーー!!』
「すっっごいぞ!こんなに広いんだな!?見ろよナマエ、パーク内に湖があるぞ!それにラプラス型の乗り物も…!」

入園した瞬間、私もホップも歓声しかあげられなかった。

そこには、ガラルのどの街にもない街並みが広がっていた。入り口すぐのアーケード街はお土産屋さんやレストランが多数並んでおり、その建物はベージュや茶色を基調としたオシャレな建物に異国の地に来たような気分だ。

その奥には先ほどホップがはしゃいでいたように、大きな湖がありラプラスの形をした乗り物が並んでおり、その上空にはフワライドの気球が浮かんでいる。観覧車やジェットコースター、垂直落下式のアトラクション等も多数見える。あちらこちらから来場者の悲鳴や笑い声が聞こえてきて、とても楽しそうだ。

沢山の来場者の多くはカップルやグループでお揃いのカチューシャや帽子を被っていて、少しだけうらやましくもあるが、そんなことよりも目の前の光景に、気持ちどんどん高鳴っていく。

「ナマエ、オレあれの乗りたいぞ!」
『私もそう思ってた!行こう!!』
二人で効率よく周れるプランを考えたはずだったのに、気が付けばお互いが乗りたいもの目掛けて早足で歩いていた。

『ねぇ!見てみて…!!あれ、すっごく楽しそう!』
「アレ、結構な高さから落ちてるみたいだけど、ナマエ大丈夫なのか?」
『なに、そのちょっと意地悪そうな顔。そりゃぁ小さい頃は高い所は苦手だったけど、もう大人だから大丈夫だよ!そんなこと言うならホップ。アレは大丈夫なの?』

私が指さしたのは、ゴーストタイプのポケモンをたちを模した一つの建物。
『ホラーハウス』

きっと今の私の顔はニヤニヤしているに違いない。
ホップが昔、スクールで怖い話をされたとき、私の腕にしがみついてきたことを私はつい昨日のことのように覚えている。

「オ、オレだってもう大人だからな…!ホラーハウスくらい行けるぞ…!」
あ、これは克服してないな、と私は心の中で密かに思った。



ホウエン地方との共同開発で作られた、宇宙空間を駆け巡るアトラクションでは
「ナマエ!見ろよあれ!ジラーチだぞ!」
『本当だー!可愛い〜!あ、見て!レックウザだよ!?』
「レックウザ!カッコいい…!つか本物に会いたいぞ!」
なんて高速で駆け巡っているはずなのに、二人でポケモンをあれこれ探して楽しんだ。


急流滑りの直前。
「ナマエ、これ着た方がいいぞ」
そう言ってホップが差し出したのはレインコートだったのだ。
『なんで?』
「いや、多分だけど、かなり濡れるぞ…」
『?わかった』

そんなに濡れるのかな…なんて思っていた私が甘かった。

アトラクションのシナリオとしては、私たち人間が船でカイオーガの住む縄張りに間違って入ってしまい、乗っている船が大揺れした後、カイオーガに襲われる瞬間に落ちるのだが…

結果はびしょ濡れで、レインコートがなければ服から水が滴っていただろう…だが…

『ねぇ、ホップ…』
神妙な顔でホップに呼び掛けてみると、
「ナマエ、恐らく思ってること同じだぞ…」
ホップも神妙な顔でこちらを見た。

そして二人揃って大真面目な顔で、
『「もう一回のりたい」』
と言い切ったのだ。

その後二人で笑いながら、アトラクション待機列へと並んだ。そう、私もホップも本物ソックリなカイオーガの迫力や美しさ、リアリティ、そしてスリルに心奪われてしまったのだ。

「カイオーガの海域に入る前、ラプラスがいたの見えたか?」
『えぇ!見てなかった!!次は見る!』

何分も並ぶ列でさえ、ホップとの会話は尽きることなく、あっという間に順番になってしまう。
やっぱり、ホップと来れて良かった。
きっと彼とだったら、何を乗ってもポケモンの話なんかされないだろうし、待ち時間も面倒くさそうにされるだろう。

ホップと一緒だからこそ、一分一秒が楽しいのだろう。

ナマエは心の中で、今も話を続けているホップに本日何度目かのありがとうを呟いた。



「ナマエ、ちょっとここで座って待っててくれ」
『?うん、分かった』

あのあと、カイオーガのアトラクションを2周し、お昼のパレードを見た。
そろそろ足が少しだけ疲れた気がすると思っていた頃、ちょうどホップが木陰にあった二人掛けの椅子に座らせてくれる。この靴で来て正解だった、いつもの可愛いヒールで来ていたら、こんなにあちこち元気に回れなかったと思う。それでも疲れを感じてしまうのだから、どれだけこのパークは広いんだ。

座らせてくれた本人はというと、100メートルほど離れた角を曲がったあたりで誰かと話している。
道でも聞いているのかな。

私は電車を降りてから一度も見ていなかったスマホを取り出し、新着メッセージをチェックする。
2件。
差出人はダンデさんと仕事の社長だった。

「ダンデ:仕事はまだ復帰しないのか?今度うちでまたバーベキューをするから是非来てくれ。ホップにも伝えといてほしい」
ダンデさんとはホップの家でのバーベキューの他、仕事を一緒にすることもあり、こうして時々メッセージが来る。

もう1件は社長から。
「社長:そろそろ復帰してもらえないでしょうか?皆待っていますよ」
どちらも仕事関連かぁと、小さくため息をつく。

なんて返信しようか悩んでいた時、
ポスッと頭に何かが被った。

視界の両端でグレー色の柔らかそうな毛が揺れる。
そっと頭を触ってみると、ふかふかとした感触。

「やっぱり似合うな!」
『ホップ?』

顔を上げてみると、青空を背にしたホップがチュロスを片手に2本もちながらこちらを見下ろしていた。
スマホの電源を切ってからカバンに戻し、両手で頭に乗せられたものを確認してみる。

『これ…ウール―の帽子…!!』

ホップの手で被せられたのは、テーマパーク限定のウールーの帽子だった。そしてこの帽子は実際のウール―の抜毛を使って作られているので、一日の販売個数が少なく、手に入れることは難しいのだ。

「お前、ウール―好きだろ?さっき電車でどこか残ってるところがないかチェックしたら、あそこのワゴンで売ってるのを見たって書いてる人がいてさ」

そういいながらホップは隣に座り、私の方を見ながら
「やっぱそれ、よく似合ってるよ」
太陽のような笑顔で笑った。

その笑顔がとても輝いて見えて、私は一瞬言葉を失い、帽子に目を落とす。
私のためにわざわざ調べててくれたの…?

帽子はとてもかわいらしく、ツバの根本には小さな角が生えており、両側にはウール―の編み込み部分が短めにつけられていて、動くとウール―のように縦横に揺れそうだ。

彼からこんなこと、一度もされたことなかったのに、なんて嬉しいサプライズなんだろう…

『ありがとう…!ホップ!大事にするね…!』
鼻の奥が熱くなったような気がするが、私は満面の笑みを浮かべた。

そしてそのままホップの腕をつかみ、立ち上がった。
「っ!?ナマエ!?」
いきなりの行動に驚いたのか、ホップがビックリしたように目を白黒させた。

「ナマエ、どこ行くんだよ」
『ホップのを買いに行く』

そう言い切りながら先ほどホップが居たであろうワゴンへと向かう。
「オレ…!?オレは…」
『ホップが私のを選んでくれたみたいに、今度は私がホップのを選んであげる』

そう言っている間にもワゴンに到着した。
ウール―の帽子は私のものがラストだったらしく、一つも残っていなかった。その代わりにラック中にカチューシャが飾られている。リザードン、ワンパチ、カビゴン、ピカチュウ…たくさん種類がある中で、私が選んだのは…

『ホップ、ちょっと屈んで?』
「お、おう…」
『うん、似合ってる』
「これ…!」

そう、バイウールーモチーフのカチューシャだった。頭の角はかなりコンパクトにされたもので、頭につける部分が白と黒のもこもこになっている。ホップの相棒であるバイウールのカチューシャはとてもよく似合っていた。

『ホップの相棒だし!ホップにはこれしかない!って思ったの』
頭の角を優しく触っているホップに
『私はウール―、ホップはバイウール。お揃いだね!!』
といえば、
「ナマエ…!…あ、ありがとう」

何故かホップは少し顔を赤くしたような気がした。
そして私自身、ホップとお揃いで嫌な感じはせず、むしろとても良い気持ちだ。
だってウールーとバイウールーなんて組み合わせ、素敵だと思わない?

「あ、そうだ、ナマエ。カチューシャに夢中で忘れてたんだけど…ほら」

ずいっ、と私の目の前に茶色く細長い棒が差し出された。
とても甘く良い匂いがするチュロスだ。この香りはメープルだろうか。

「さっき座った時に休憩がてら食べるかって思って買ったんだけど、」
すっかりわすれてた、と頬を掻くホップ。
彼はこんな所まで気を回してくれていたらしい。素直に彼にお礼を言いながら差し出されたチュロスを受け取り、
一口かじればそれは、匂いに負けを取らず甘い味を広がらせる。
そのチュロスの甘さは普段の私の心の棘まで溶かしていったのだった。



チュロスを食べ終わったのち、さあ次はどこに行こうかと相談していると、

「そこのお姉さん、お兄さん♪」

向かいからにこやかな笑顔で手を振っているお姉さんがいた。服装からすると、ここのテーマパークの従業員らしく、首から重たそうなカメラを提げている。

「オレたち、ですか?」
「そうです!素敵なカップルのお二人さん。あまりに素敵な雰囲気だったので」
「いや、オレたちは…」

「私、パークでやっているフォトサービスのカメラマンなのですが、素敵な雰囲気のカップルさんやご家族の写真を撮影して、お持ちのスマホロトムに無料でプレゼントしているんです!あ、もちろん撮影後はお客様の目の前でデータは削除しているのでご安心ください!」

お姉さんはかなり熱が入っているのか、ホップの言うことを全く聞いておらず、ニコニコと話を続ける。
「と、いうことで!記念に一枚どうですか?」

「え、と…」
『いいんじゃない?ホップ。せっかく来たんだし』

「わぁ!本当ですか!じゃぁ私カメラ調整しますね!」

お姉さんは撮影の許可がおりたと喜びながら、2、3歩離れながらカメラを起動させ、小さなディスプレイを覗き込みながらダイヤルを回して光等の設定調整を始めた。様子を見るに、本格的に撮ってくれるようだ。


『例えカップルじゃなかったとしても、私はホップと来た記念があれば嬉しい』

お姉さんが調整している間、未だ悩んでいるホップにそういうと、
ホップは顔を真っ赤にして視線を逸らしながら小さな声で

「お前が、いいなら…オレも欲しいぞ…」
と承諾してくれたのだ。

『本当は欲しかったんでしょ〜!』
ちょっと冗談ぽく言えば、ホップは益々赤くなってうつむいてしまった。

『ホップ、今日やけに顔赤くなること多くない?』
「そ、そんなことないぞっ!」

「はーーい、カメラ準備できました!それでは撮りますよ〜!お二人さん、もっと寄ってくださーい!はい、もっと〜!」

(も、もっとくっつくのか…!?近すぎないか!?)
とあわあわするホップのことに全く気付かないナマエ。
その光景は周りからみると、微笑ましいカップルそのもので…

「いきますよー!!3、2、1!」

カシャッ

スマホロトムが受信した写真は、
顔を赤くしながらあわあわしているホップの表情と、満面な笑みでウール―の帽子を押さえるナマエの幸せそうな1枚だった。

★下記イラストあり★





(瀬田マキ様)
「小説内で使用のみ」を前提に、小説内の1シーン&服装考案も当方で提案し、ご依頼致しました。当方の権利としまして、転載、盗作、模倣及び他の方への送信等は禁止致します。

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