14.更新されていく好きという感情

バグによって消えていたお話です。今後のお話に繋がるところもあるので、急いで下書きを書き起こしたのですが、細かいところや言い回しはしっかりとは訂正できておりません。ご迷惑をおかけし、申し訳ございません…3/15記載

※早く展開を進めたい方はスキップしても可。

ホップ視点
どんなに歩き回っても、いきたい所が減らないという幸せな現象。

気がつけば太陽はかなり傾いてきており、もう夕方頃だ。

パークの中を縦横無尽に歩き回っていたオレたちだったが、パンの焼ける香りにナマエが足を止めた。

どうやら、ワゴンでサンドウィッチを売っているようで、そちらをじっと見つめている様子をみるにお腹が空いたのだろう。

『サンドウィッチ買ってもいい?』
「言うと思ったぞ」

想像通りの言葉に、ちょっと笑ってしまう。

『だってお腹空いたんだもん』
「ハハハッ、オレはいいけど、夜ご飯食べないのか?」
『食べる』
「なら、今腹一杯食べたら夜ご飯入らなくなるぞ。いいのか?」

オレの言葉にナマエは葛藤しているのか、むぅとワゴンを見ていて、その光景が拗ねたプリンのように可愛くてついオレは甘やかしてしまった。

「わかった、一個買ってこいよ。半分はオレが食べる。そしたら小腹が満たされるくらいでちょうどいいぞ」
『やった!ホップならそう言うと思ったよ』

先ほどオレがナマエに向けて言った台詞をそのまま返されて、ナマエもオレがなんて言うのか予想していたことが判明した。

それを踏まえての「買っていい?」なのだから、ナマエの方がオレより上手だったということだ。

オレはしてやられたような気がして、あちゃーと手を額にあてた。

ポケモンの行動を予想したりするのは得意になったはずなのに、ナマエのことになるとまるでダメらしい。
重症だぞ、オレ…

ワゴンではナマエがとても嬉しそうな顔で女性スタッフからサンドウィッチを受け取っている最中。

誰とでも気さくに話ができるナマエはスタッフとも軽く数言やり取りをしているようで、楽しそうだなと思っていたら、ナマエは突然こちらを指さした。

なんだ…?

スタッフもワゴンから身体を乗り出してこちらを見ると、笑顔で手を振ってくれた。

オレが手を振り返すと、またナマエとスタッフは1,2言話した後、ナマエはスタッフに小さく手を振った。

そのまま、自分が贈ったウールーの帽子を被り笑顔で駆け寄ってくるナマエ。揺れる銀髪が太陽の光に反射し、キラキラと輝いている。

その姿がとても綺麗で、この笑顔を手放した男は見る目がないな、と本気で思った。

『買ってきたよ!』

オレに駆け寄ってきたナマエは二つに割られたサンドウィッチの片方を差し出した。

「これ、パンが切られてないやつに挟まってるんじゃなかったか?」

『うん。そうだったんだけどね、二人で食べるからこっちの方がいいかなって。誰も並んでなかったし、お姉さんに聞いてみたらすんなりOKしてくれたから、カットしてもらったの』
「そっか。ありがとな!」

『その時にね、[どなたと来たんですか?]って聞かれたから、彼!ってホップを指さしたらね、[あら!彼氏さんとですかー!お似合いですね!]って言われちゃった!』

「ゴホッッ!!」

一口目をかじりながらナマエの話を聞いていたのだが、最後の一文に今口に入れたパンの耳を吹き出しそうになった。

『どうしたの!?喉に詰まった!?お水買ってこようか?』
「い、いや、大丈夫…!」

周りから見てナマエとお似合いに見られているという事に動揺して、サンドウィッチを吹き出しそうになったなんて、絶対に言えない…

「それより、お姉さんになんて返したんだ?」

ナマエの返答を、ちょっとドキドキして聞いてみる。こんなことでドキドキしてるオレはスクール中等生か…!

『ん?あ、返事はね、出来なかったの。その時ちょうどサンドウィッチ出来たちゃったし』

ケロッとオレの希望を打ち砕くナマエ。いや、別にそんな期待とかしてはなかったけど、返答していないという答えが予想外でちょっとショックだったのは事実だ。

「そ、そうか…ナマエ、冷めないうちに食べよう」
『そうだね!いただきまーす』

と、勢いよくサクッとパンの音を立てて頬張り始めたナマエリスだったが、数口すると突然その音が止んだ。

静かになったナマエの方を見てみると、微妙そうな顔をしたまま、手に持っているサンドウィッチを見つめている。

「どうした?嫌いなものでも入ってたのか?」

ナマエの嫌いなものはコレには入ってなかったはずだぞ…?

『ねぇホップ』
「はい」

あまりにも真顔でサンドウィッチを見つめ、真面目なトーンでナマエに名前を呼ばれたからか、自然と背筋が伸びてしまった。オレ、なにかしたか…?

『このサンドウィッチ十分美味しいんだけど…』
「はい…」

美味しいんだけど…?

若干間を開けたナマエは、とても神妙な顔でこういった。

『ホップの作ったサンドウィッチの方が美味しい』

「真剣な顔してるから、何かあったのかと思えばそんなことかよ!?」

オレが呆れ半分驚き半分でそう返すと、ナマエが噛み付くかのように勢いよく身体を乗り出してきた。

『そんなことじゃないよ!ホップ、分かる??ここあの有名なテーマパークなんだよ!?何を乗っても観ても楽しくて、何食べても美味しいっていうくらいなんだよ!?それを勝るホップのサンドウィッチ!何!?何を入れてるの!?』

あー、と頬をポリポリと掻きながら取りあえず

「企業気密です」

とだけ答えてやる。

『えー、なんで秘密なの〜…』

少ししょんぼりしているナマエには申し訳ないけど、ナマエの好きな食べ物、嫌いなもの、体調、体質など全部把握していて、そこからその日によってレシピを考えているなんて、口が裂けても言えないだろ?

だってストーカーみたいじゃないか。



サンドウィッチで体力を回復したナマエは、次の目的地に向けてオレの腕をひっぱりながら早足に歩く。

ナマエは女性の平均身長より高いし脚も長いが、それでもオレの歩幅の方が大きいはずなのに、引っ張られるというのは不思議だ。

それくらい楽しみなのだろう。何せ今から向かうのは、ナマエが楽しみにしていたショーなのだ。

『ここだ!』

お目当ての建物の前に着いたナマエはオレの腕を離し、スマホロトムを取り出した。 

『ロトム、ここの看板と建物の両方が入るように写真お願い出来る?』
「お安いご用ロト!」

看板にはテーマパークの看板キャラクターたちが様々な衣装に身を包んで笑っていて、大人から子供まで楽しめるようだ。その証拠に看板の周りには沢山の親子連れが、開場はまだかまだかとソワソワしていた。

ソワソワしているのは親子連れだけではないようで…いつの間にか写真を撮り終わったナマエもオレの隣でソワソワと落ち着かないようだ。

『座席、どこかな…』

チケットは入場の際に座席番号の書かれたカードとランダムに引き替えされるため、入ってみないと分からないシステムのようだ。

「どこになるか気になるぞ…」
『そうだよね!いい席でありますように!でも私日頃の行いいいから、きっと言い席だよ!』

なんて冗談のように笑うナマエ。

「えー、お前、日頃の行いいいのかよ?」
茶化したように言うオレに、
『いいんです!』
と軽く叩いてくる。

知ってるよ、お前が日頃我慢してるなんて。
だからこそ、

「でも、本当にいい席だといいな」

束の間の羽根休み、神様たまにはナマエの願いを叶えてくれよな。



『うそ…!?ほんとに…!?ここなの…!?』

座席の前に立ったナマエは何度も渡されたカードと座席番号を見比べる。
オレもナマエが持つカードを一緒に覗き込むと…

それは、オレの神様へのお願いが叶ったのかオレたちはなんと、1階席の1列目だったのだ。

「ナマエ!やったぞ…!1列目の1階席じゃないか!!」
『ほんとに!?ホップほんとに!?私の目の錯覚じゃないよね!?』

「錯覚じゃないぞ!オレたちここだぞ!」
『やったぁぁ!!』

二人で手を取って喜び合う。座席に座って前を見れば、大きなステージが聳え立っていて、ここならキャラクターとも目が合うだろう。そのままぐるりと会場を見回せば、座席は2階席まである。

ただ、2階席だと前に手すりがあるので背が低いとみるのが大変そうだろう。会場が始まってまだ間もないので、たくさんの人が入場してきたり、席に着いていたりとざわざわしていてた。

『ねぇ、ホップ』
「なんだ?」
『このショー、終わったらもう閉園間際だと思うんだけど、』
「あぁ」

ナマエは少しもじもじと目線を彷徨わせたあと、

『帰る前に間に合ったら観覧車、乗ってもいい…?』

人のざわめきにかき消されそうな程の声でそう投げかけてきた。その時の顔を写真に収められたらどんなによかっただろう…普段からは想像もつかないような、少女漫画の主人公のような顔をしていた。

「っ〜〜!!いいに決まってるだろ…!!約束だぞっ!」

あまりにナマエが可愛らしく、口元を片手の甲で覆いながら返事をしたが、これじゃオレ、ツンデレみたいじゃないか…!

そんなオレの気持ちなんて露知らず、ナマエは「うん、約束ね!」と笑ったのだ。


あと始まるまでどれくらいだろう、時間を確認しようかと思ったとき、ざわめきの中から子供の泣き声が聞こえてきた。
こんなに会場がざわめきたっているのに、ナマエも聞こえたらしい。

サッと振り返り2階席を見上げると、そこには泣いている小さな女の子がいた。その隣には母親だろうか、お腹の大きな女性と、劇場スタッフ。

劇場スタッフも頭をさげ、母親も何かを必死に頼んでいる。その近辺では憐れむような顔をした家族連れや、迷惑そうな顔をしたカップルなど様々で…その空気が伝わったのか、母親と女の子は席から離れ、出口があるメインロビー側の扉から出て行ってしまった。

離れていたからよくわからなかったけど、何かもめていたのは確かだぞ。

「ナマエ、あれなんだったんだろうな」

と振り返るのをやめ、隣を見ると、ナマエは何かを考えたように自分の座席カードを見つめていた。

「ナマエ?」
『ねぇ、ホップ』

カードから目を離さず、ナマエはオレに問いかけてきた。

『ホップは座席、ここじゃなきゃ、嫌?』
「え、そりゃ、せっかくここ当たったんだぞ?」
『そう、だよね…』

オレはナマエの雰囲気にハッとした。ナマエ、もしかして…

「まぁでも、元々お前のチケットだし!観たいって言ってたのはお前だからさ、オレの事は気にしないで好きにしていいぞ!」

その言葉に、やっとナマエはカードに落としていた視線をオレにあげた。

『ホップ…』
「大体、お前がやりたいこと分かるぞ」
『…ありがとう』

そのままオレたちはせっかく着いた席を立った。ナマエは少し名残惜しいのかステージをもう一度だけみてから、先ほどの女性が向かったと思われるメインロビーへと向かった。


扉からメインロビーに出ると、端にあったソファに先ほどの母親が座って、正面で立ったまま泣きじゃくっている女の子に一生懸命話しかけていた。

泣き声は収まる気配はなく、むしろ大きくなっており…入場中の観客たちから白い眼を向けられており、母親までが泣きそうになっていた。

あまりの泣き声に劇場スタッフが声をかけにいこうとしたとき、その前をナマエが横切った。

『ね、お嬢ちゃん。ショー、みたい?』
突然、隣から声がして驚いたのか、女の子は一瞬だけ涙がとまった。

女の子自身小さいのに、さらに低い位置から声がする。母親と女の子の横にナマエがしゃがみ込んでいたのだ。

オレはナマエに前を横切られて、どうしたらいいかわからないスタッフの元へと歩み寄った。

「お騒がせしてすみません。もう少しだけ、様子をみてもいいですか?」
「は、はい…」

軽く頭を下げながら、スタッフと共にナマエたちを見る。
…オレがフォローするのが分かってても一声かけろよな。


暫く様子を見ていると、ナマエは女の子と、まるでリーグカードの交換をするかのように、自分の座席カードを女の子のカードと交換して帰ってきた。

『お待たせホップ!2階席だよ!いこう!』

女の子は泣き止み、ナマエに手をふり、母親はオレに会釈している。
オレも軽く会釈を返すと、ナマエと共に2階行きエレベーターに乗り込んだ。

気が気がつけば開演まで残り僅かになっており、エレベーターには誰もおらず、ゴォォォという機械音だけが響いている。

『ホップ、座席、ごめんね…』
「気にすることじゃないぞ。一番観たいっていってたナマエがいいなら、オレは何も思うことはない。むしろ、そうやって人に譲れるお前はすごいぞ!」

偉いじゃん、とナマエを小突くとナマエは恥ずかしそうに笑った。

コイツのこういう所、オレは大好きだ。

話を聞くと、あの親子は明日この地方をたつらしく、最後にどうしてもみたいと言っていたこのショーを観に来ていたらしいのだが、母親のうっかりで大人2名で申し込んでしまったらしい。引き替え座席が子連れ席ではなく、子供は手すりがあってステージが見えない2階席を含む大人枠での引き替えになってしまったらしい。


着席すると確かに手すりはあるが、ステージ全体が見渡せて視界良好だ。

ナマエが下に向かって軽く手を振っていて、その方向には先ほどの親子がいた。

二人が着席するのをみたまま、

『2階席の前から1、2、3列目って、結構見えやすくて。時には招待者席として使われることもあるんだよ。キャラクターたちとハイタッチとかできないけど』

どっちにしても私たち、ラッキーだね。

ナマエがそう笑ったと同時に開演のブザーが鳴り響いた。

オレは、何度も言うが、そういうお前の優しいところ本当に大好きだぞ。



ショーは想像していたより遙かに圧倒的だった。

開演のブザーのあと、真っ暗になった会場は次の瞬間、別世界へと飛ばされたかのような美しいマッピングが広がった。

ナマエの言っていた、2階席は意外と招待席としても使われていると言っていたが、正にそうだろう。

2階席から見る景色は360度どこをみても美しく、まるで自分が包み込まれているかのようだった。場面に合わせて変わる風景やダンサーの衣装、それにメインキャラクターのたちの仕草…どれをとってもどれも100点以上だった。

ストーリーはメインキャラクターたちが冒険し、空に浮かぶ幻の国にたどり着くというストーリーだったのだが、これがまた、大人は感動し、子供は夢と希望に満ちあふれるような物語だった。

一曲一曲で場面が変わるのだが、友情、愛情、勇気、そして未来…
勇気から未来へと繋がるシーンで、

[僕たちは仲間を信じて、進まなきゃいけない。なにも怖がることなんてないさ]
[未来は誰に決められるものじゃない、自分たちの手で切り開いていくんだ]

という台詞があった。

そういえば、オレもムゲンダイナと戦ったとき、ザマゼンタやバイウールー、マサルを信じて進んだ。そして、暫くした後、オレはアニキみたいになるという過去の自分から呪縛を振り払い、博士になる未来を選んだんだ。

オレがこんな風に思うように、ナマエも何か思っているのか…?

隣に座るナマエの顔にマッピングのライトが反射して写って、少し眩しい。

そのまぶしさで目が眩んだのか、ただの見間違いか…
ナマエの頬に一筋だけ涙の跡があったように見えた。

名前を呼ぼうとしたけれど、
すぐに暗転してしまったため、その真偽を確かめることは出来なかった。

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