06.キミを一番理解してるつもり

ホップ視点
【今日、バイウールーたち洗うんだけど、来るか?】

ナマエにメッセージを送ったのは早朝だったのに先ほどメッセージを確認すると、送ったあとすぐに「10時に行くね」と連絡が返ってきていた。
今の時刻は9時30分。

オレがメールを送った時間に起きてたのか?低血圧のナマエにしては珍しいぞ。
とりあえず、朝早かったのを考慮すると、血圧も低いままだろう。低血圧に良いとされているハーブティーと軽食でも作るか。

キッチンに立ちながら窓の外を眺めると、見渡す限りの青空が広がっている。太陽の光をさんさんと浴びている草むらは輝いていて、今日はコートもいらないくらい暖かそうだ。

洗ったり拭いたりするのを考えると、むしろ暑そうだぞ。長ズボンにTシャツの方が良いだろうか…

そろそろ紅茶が淹れ終わるなと思っていた頃、ドアが開く音と共にトタトタと誰かが入ってきた。

『おはよう、ホップ』
「あぁ、おはよ」

声がしたかと思うと、今日はジーンズに長袖のフード付きパーカーとカジュアルな装いのナマエがキッチンにひょっこりと顔を出した。時計を見ると、時間ちょうどに着いたらしい。
それにしても…

「ナマエ、今朝の返信やたら早かったけど、寝てなかったのか?それに顔色も白いぞ」
『うーん、なんだか昨日はあまり眠れなくて…』

困ったように笑うナマエの前に、淹れていた紅茶とサンドウィッチを差し出した。ナマエの体調を意識し、栄養バランスを考えて作ったサンドウィッチは我ながらによく出来ていると思う。

サンドウィッチと紅茶を交互に見た名前はキラキラと顔を輝かせ始める。
『わぁ!ありがとう!!実は朝まだだったんだよね』
どうにも今朝は食欲沸かなくてー

ナマエはホップお手製朝食を手に、ご機嫌な様子で食卓へと歩いていく。
その後ろ姿はえんぴつのように細くて、この身体のどこにご飯が入っていくのか心配になるときがあるのだが、この喜び方からするに、ちゃんと身体に入っているのだろう。

「結構キツいなら無理して食べなくてもいいぞ。食べれる範囲で食べればいい」
『ううん、大丈夫!ホップのサンドウィッチはいつも食べやすいから』
やっぱりホップは天才だなぁ〜。
ナマエは幸せそうにサンドウィッチにかじりついた。

『ん〜!おいひい…!!』
「こーらー、ちゃんと飲み込んでから喋れ〜」
『だって、美味しいんだもん…!』

口をモグモグさせたまま感想を伝えてくるその姿はまるでホシガリスのようで…
想像すると笑ってしまいそうになったから、口元を手で抑えながらリビングの扉へと向かった。
ここにいては、ホシガリスナマエを想像して本気で笑ってしまう…

「オレ、着替えてくるな」

ルンルンでご飯を食べているホシガリスナマエを横目に着替えに自室に入った。

「はぁ〜…」
ため息をつきながらクローゼットの扉を横に引く。まるでホシガリスの様に喜んで食べるナマエをもう一度思い返して出た、幸せのため息だ。
「可愛かったぞ…」

バイウールーたちを洗いやすいように、先ほどサンドウィッチを作りながら浮かべたパンツとTシャツを引っ張り出し、袖を通す。
今から彼女とポケモンを洗うというだけなのに特別な1日になりそうで。念のため鏡で全身を確認してからドアノブに手をかけた。

しかし、ふと思い出したことがあり、ドアノブから手を離すと、再びクローゼットを開ける。
数ある服の中から、ガサガサと博士になってからあまり使わなくなってしまったキャップを探し出した。

たしか、右のアウターの辺りにかけてたような…
あったぞ、これだ。
このキャップの中のどれが良いのか…
数あるキャップのうちの比較的新しいものを取り出した。

うん、特に埃っぽくはないし、臭くもない。

取り出したキャップを手に、今度こそ部屋の扉を開けた。



リビングに戻ると、ちょうど食器を洗い終えたのか、タオルで手を拭くナマエが目線をあげた。こうやってうちでご飯を食べることがあれば、彼女は必ず洗い物をしてくれるのだ。

『ごちそうさまでした。美味しくて全部食べちゃった』

へへっと笑いながらこちらに近づいてくるナマエに、
「それは良かったぞ。それから、これ」
先ほどとってきたキャップを深めに被せると、

『わっ…何??』

ナマエはビックリしたような声と共に、キャップを浅めに治しながらホップを見上げた。その表情はホップには心臓に悪いものだったらしく。

(っ…!?これは…ふいうちだぞ…!)

いくらナマエが身長高めの女の子だとしても、ホップの身長からするとやはり差が開くもので。必然的に上目遣いになるのだが、それに相乗して彼シャツならぬ彼キャップが効果を二倍にしている。

(こんなところで、ドキドキさせるなんて…卑怯だぞ…!!)

『ホップ?』
「外が…」
『外?』

「日差し、きつかっただろ?ナマエ、色白いし、紫外線ダメだったから持ってきたんだぞ…」

照れくさくて、もう一度ナマエのキャップを深く被せた。
自分はきっと今顔が赤いのではないか…変に思われていないだろうか…心臓をバクバクさせながらナマエの様子をうかがう。

するとナマエは
『ホップ、ありがとう。サンドウィッチも紅茶も帽子も。私のこと、何でも分かるんだね』
花が咲くような笑顔でホップを見上げたのだった。


(これはオレの心に効果抜群だぞ…)
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