08.一人泣く夜

ナマエ視点
シャンプーの日の前夜
ホップ名前のみ


出かける前にうちによって荷物だけ置いていった、どこで使ったかも分からない彼の着替えを洗濯し、家事を全てこなした私は何度目か分からないため息をついた。

今日はもう寝よう。一人で過ごすにしては広すぎる一軒家では何もすることなんてない。

彼が置いていった洗濯物をし、食器を洗い、掃除をして、ご飯を作り置く(もし彼が帰ってこなければ残った作り置きは翌日の私の朝ご飯にすればいい)
それくらいなのだ、彼にとって私の存在価値なんて。彼にとって私は家政婦なのだと思う。

全ての家事をこなしたし、もうやることもない。ならばこの憂鬱な気持ちを忘れるためにも寝てしまおう。

そう思ってベッドに入ったのが21時だったはず。
そして今の時刻は3時30分。

眠っていたはずの私は、部屋の片隅に座り込んで嗚咽していた。



2時頃に彼が帰ってきたのだ。
しかも離れていてもわかる、アルコールの臭いをぷんぷんさせながら私の部屋を開け、寝ていた私の髪を掴みベッドから引きずり出した。

髪を捕まれ、前も見えないまま階段に突き飛ばされ、上から下まで転がり落ちる。

途中彼の笑い声がした気がするけど、それどころではなかった。身体中が痛くて、四肢を丸めると、階段から降りてきた彼がまた私の髪を掴み、リビングへと連れて行った。

『ねぇ、やだ…い、たい…!…やめてってば………!!』

掠れる声で抵抗したのと裏腹に、千切れた私の髪がハラッと何本か舞うのが見えた。
 


彼は1時間後に女からの着信で家を出て行った。

私は、彼が出て行ったのを確認してから、這うように階段を上がり自室に入ってそのままズルズルと座り込んだ。

座り込んだ途端、ポタポタと目から熱い水滴が床に落ちた。それが自分の涙だと分かった途端、それは更にこぼれ落ちて、止ることを知らず床に水たまりを作っていく。

この涙はなんのものか、何に対しての涙なのかはもう分からない。

でも、彼のせいで泣くことなんて絶対しないと思っていたのに、泣いてしまったと認めると、悔しくて悔しくてもっと涙の量が増えた。

苦しくて苦しくて、首を絞められているような感覚に陥る。それが過呼吸からくるものだと知ったとしても、今のナマエに落ち着かせる術も知識もなかった。

(息が苦しい…それならいっそ、もう死んでしまいたい…)

苦しくて、その苦しさが息なのか心なのか、もう分からなかった。
ナマエの中はぐちゃぐちゃでもう何も分からない。

(誰か…助けて…)
ぼやける視界、ぐちゃぐちゃになった心から助けを乞う。

(ここから私を出してほしい)
止らない涙と、痛む身体と心、口から漏れる荒い息遣い。

(ホップ、助けて…)
咄嗟にスマホに手を伸ばし、ホップに連絡しようとアドレス帳を開く。だが右上に表示された時刻は朝の4時。

さすがにホップも寝てるし、いくら幼なじみとはいえ、こんなに泣かれてたら迷惑だろう。

助けを乞うことも出来ないのかと、更に涙が流れた。誰か助けて…と願うようにスマホを頭にくっつけて項垂れる。

その姿はまるで土下座して祈っている様な状態で、こんなとこ人に見られたら馬鹿にされるだろうな、なんて泣きながら自嘲したそのとき、新着メールを告げる音がした。

その画面を見たナマエは息をのんだ。


【今日、バイウールーたち洗うんだけど、来るか?】


(ホップ…ホップ…!ホップ……!!)

まるでナマエの願いが届いたかのようにスマホを光らせた、何気ないホップからのメール。新着メールのライトと眩しい画面に。

更にナマエは泣いたのだった。


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