01.お邪魔しますとただいま

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ナマエ視点
ホップの家の前で、一緒に住むに当たって色んな約束を交わした私たち。それはもう、ホップの心配の気持ちと優しさが沢山入り交じったものばかりで、果たして約束と呼べるのだろうかと思ったくらいだ。

「あ、そうだ。これ」
ホップが器用に私の荷物を背中へ回しながら、ガサガサと自分の薄い上着のポケットを漁って取り出したものは、
『カードキー?』
何の飾り気のないシンプルなカードキーだった。

「オレの家の合鍵だ。いくら暫くは1人で出歩かないとは言え念のためにあった方がいいだろ?」

と手渡されたそれは、どうやらつい最近作られたものらしく、太陽の光に反射してキラキラと輝いていた。

「病院に寄る前に作っといたんだぞ。無くすなよ?」

冗談のように笑いながらホップは自身の家の敷地内へと入っていく。
ホップの家は自身のポケモンを放せるように庭付きの平屋になっており、建物自体はそんなに大きくはないのだが、庭の面積はかなり広い。それこそ私とバイウールーがキャッチボールが出来るくらい。

「じゃ、家、入るかっ!」

ニカッと笑いながら、玄関に立つとかなり輝きを無くすくらい使い込まれた自身のカードキーを右側に設けられたセンサーへとかざす。するとカチャッと中から鍵が開く音と同時に、「お帰りロト〜!」とセンサーから可愛らしい少年のようなロトムの声がした。

「ただいま、ロトム」
「ホップ、お帰りロト!ナマエも来たロ?」

このロトムとも、ホップがここに移り住んでからの付合いだからお互い良く知っている。なんならホップが「今日はナマエが来るぞ」と伝えればずっと家の鍵を開けているくらいだから顔パスもいいところだ。

「違うぞ、ロトム。今日からナマエはここに住むんだ」
「ケテ?」
『そうなの。数ヶ月の間だけどお世話になります』

そう言って先ほどホップから貰ったカードキーをセンサーにかざせばロトムはすぐに理解したのか、
「ケテ〜!!認証登録完了ロト!ナマエが住むなんて嬉しいロ!よろしくロト〜!!」
なんて人間かのように流ちょうに話し始めるのだから本当に凄いと思う。

『私の方こそこれからよろしくね!』

ホップがガチャリとドアを開けると同時に、ふわっと家の香りが微かに吹いた風にのって私の髪を揺らす。慣れ親しんだホップの家の香りなのに、暫く病室にいたからかどこか久しく感じる。

「さ、ナマエ、中入れよ」

ドアを押さえててくれるホップに軽く会釈をしながら横を通り過ぎ、『お邪魔しまーす』と家の中に入った時だった。

「ケテ〜〜!!」

とまるでサイレンかのような声が玄関に響き渡り、私は思わず飛び上がりそうになった。

「なんだよ、ロトム…!」

なんてホップがちょっと怒ったようにスマホロトムを睨んでいるが、飛び上がりそうになるくらい驚いたのはホップも同じだったようで。心臓の辺りに手をあてている。

「ナマエ、ダメロト!!」

ロトムはセンサーからふわっと出てきて、私の周りをブンブンと蜂のような音を立てて跳び回り始めた。けれども私は何がダメだったのか分からなくて…

『えっと…いつもホップの家にあがる時みたいに、普通に入ったんだけど…』
「それがダメロ」
『え…普通が、ダメ…?』

ますますロトムが何に対して注意しているのか見当も付かない。頭の中で先ほどセンサーを翳してから、ロトムが叫ぶまでの間の自分の行動(といっても数秒のことだが)を思い出してみても全く心当たりがない。

私が何度も脳内再生をしていると、ホップが何かを思いついたかのように、
「あ〜、もしかして…」
なんて小さく呟きながら目元を手で覆ってしまった。

「ナマエ、気にしなくていい。とりあえず部屋に…」

そう私を促したのだが、それを許すくらいならロトムはセンサーから出てきていないだろう。絶対ひかないぞとばかり、今度はホップの周りを飛び始めた。

「ホップ、ダメロト?挨拶は大事ロ!」
「分かってる、分かってるよ…!!」

とても流ちょうに人の言葉を話すくらい知能の高いセキュリティロトムと、頭の良いホップ博士。2人で言い合いが始まったら恐らく小一時間は治まらないだろうと判断した私は、元の原因でもあるしと素直にロトムに向き直った。

『ロトム、ごめんね。私、何に対してロトムがそんなに怒ってるか分からないの。だから教えてくれる?』

するとロトムとホップは一時休戦かのようにお互いアイコンタクトをしたかと思うと、ホップが私の名前を呼んだ。アイコンタクトの結果、ホップが話すことになったようだ。

「ナマエ」
『何?』

ホップは少しだけ頬を染めながら、
「お邪魔しますじゃ、ないんだぞ」
と聞こえるか聞こえないかのボリュームでそういった。

『え?』

「お邪魔しますじゃ、ないんだぞっ!」

言い直すかのように大きな声で言ったホップはそのままの勢いでか、正解まで口走る。

「ただいま、なんだぞ!」

まるで大告白をしたかのように顔を真っ赤にして見つめてくるホップに私はポカンとしながら『…ただいま?』と呟く。
なるほど、そういうことかと先ほどからブンブン跳び回って騒いでいたロトムに合点がいく。

私が呟いたただいま、に
「ケテ〜〜〜!!」
とロトムは踊るかのようにクルクルと回り、センサーへと入っていった。

そのまま、「ナマエ、お帰りロト!」
それはもう嬉しそうな声でピコンと音を鳴らしたのだった。

『そっかぁ、そうだよね。これから暫くここに住むんだから、お邪魔しますじゃなくてただいま、だよね』

1人納得して頷いていたら、隣でドアを開けている頭の良い博士がやけに静かなことに気付いた。

『ホップ?』

見上げてみれば、顔を真っ赤にしてまた目元を覆った姿のホップがいて。

『ホップ!ただいま!』

と葉っぱにも聞こえるように言えば、

「っ!?お、おう!お帰りだぞ、ナマエ…!」

と何故かどもりながらも返してくれた。

「メェェェ!!」
その直後、私達の後に続くかのように入ってきたバイウールー達の返事のような鳴き声。

今までの私にとって「ただいま」は、誰もいない暗い家の中で、誰からも返事などないことが前提に言う言葉だったのに。

そんな言葉が、これからは毎日誰かが「おかえり」と返してくれる、そう思うだけで私はとても嬉しかった。



ホップはと言うと、
(今までお邪魔します&何も言わずに入ってきたのが…ただいま……)
一緒に住むという実感がひしひしとしてきて、これから先大丈夫かと心配になっていた。

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