02.今日からここに住むんだな

ホップ視点
「ナマエ、本当に悪いけど暫くオレの部屋使ってくれるか?」
普段から自分が使っている青年らしい部屋のドアを開けながら、そう切り出した。

ナマエがオレの家に住むことが決まって3日間。オレは部屋をどうするか非常に悩んだ。

と、言うのはオレの家は平屋で部屋数は3部屋ある。そのうちの1部屋はオレの部屋なのだが、残り1部屋は研究資料の書庫と化し、もう一部屋はちょっとした実験やオンラインで学会をする時の部屋になっており…

書庫と化した部屋の本類を整理して、オンラインで学会をする部屋に全部移してしまえば、そこをナマエの部屋に出来たのだが、何せ3日しかなかった。

それに午前は研究所、午後はナマエの病院で中々手をつけられなかったこともあって全く手付かずになってしまったのだ。

それなのに、そのくせに、
病院から帰ってきた夜中にナマエが好きそうな家具やカーテンだけはオンラインサイトで漁りまくっていたのだから、我ながら情けないと苦笑してしまった。

ロトムにも「そんなことより、ナマエの部屋を片付けるのが先じゃないロト?」と言われたような気がする。
そんなこんなでナマエの部屋が出来上がらないまま、この日を迎えてしまったので…



『え?私がホップの部屋に?』
こういうことになっているのだ。
「いや、ちょっと…片付けが間に合わなくて…」

バツが悪そうに頬を掻くオレにバイウールーがやれやれ、だから言わんこっちゃないと言う感じでため息を吐いた。

「一応、布団とかシーツは洗っておいたし、お前が好きそうな柄のやつ、頼んどいたから、数日したら来ると思う!それまで我慢してほしいんだけど…」

『それは構わない、ていうか、私の家具とか頼んでてくれたの?』
「あ、いや…別に深い意味はなくて…ナマエならコレ好きかなーって思ったって言うか…」

マズイ…マズイぞ…夜中のテンションだからか、何も思わず色々選んでたけど、なんか冷静に考えたらオレ気持ち悪い男じゃないか!?
だってそうだよな!?数ヶ月しか一緒に住まない幼なじみ同士なのに家具とか選ぶって…

そうオレは慌てていたがナマエは全く何も気にしていないらしい。

『そっか。ホップ、何から何までありがとう。家具代はあとで返すね』
「い、いや、家具代なんていらないんだぞ」

だから、暫くナマエはオレの部屋使ってくれ!と、のほほんと言ったナマエにオレは無理矢理笑った。

『私がホップの部屋使ったら、ホップはどこで過ごすの?』
「オレは暫くリビングで過ごすぞ」

まさかナマエと同じ部屋で生活するワケにはいかないだろう。
一応リビングのソファはベッドにもなるタイプだし、今の時期なら毛布があれば平気だろう。ちょっとした資料纏めだってダイニングテーブルがあれば問題ない。

『それは、申し訳ないような気が…ただでさえホップの家に住ませて貰うのに…』
「気にすることないぞ!オレの片付けが間に合わなかっただけだし…!!」

いや、ここだけの話、ナマエの好きそうな家具を見てるのになんか幸せになって時間とってたのも事実だけど絶対に内緒だ。

「片付けが終わったらすぐそっちの部屋に移れるようにするから…!なっ!?」

焦ったように笑うオレをナマエは暫く見つめていたが、やがてフッと笑って了承してくれた。




一旦オレの部屋もといナマエの部屋に荷物を降ろし、いつものようにリビングのソファで一息つかせる。

広めのリビングからは庭やその先の草むらなどがよく見えてとても穏やかな光景だ。その窓をあけると心地良い風が吹き抜ける。

先ほどまでの帰路で少々息があがっていたから、やはり疲れていたのだろう。ソファに座ったナマエの顔は少し青かった。

「とりあえず、今日は病院から帰ってくるだけで大変だっただろうし、必要な食器とかはもう少し落ち着いてから買いに行くことにしよう」

『うん、そうだね。そうして貰えるとありがたいかな』
「ナマエは暫く休んでろよ。病院で使った服とか洗濯しとくから」

ベッドにもなるソファはそれなりに大きくて、ここでナマエが寝込んでしまっても問題ないだろう。それに今までだって何度もあったことだ。さぁてやるぞ上着を脱いだオレに、ナマエは慌てたようにソファにもたれていた上半身をガバッと起こした。

『あ、洗濯くらい自分で…』
「ダメだ。お前病み上がりなんだぞ?」
『そうだけど…』
「そうだけど?」

何か言いにくいのか、先ほどまで青かったナマエの頬が若干赤くなっている。

「ナマエ?」
『……が、…』

時折外から聞こえてくるココガラとウールーの声だけで周りは騒がしくないのに、ナマエの声はあまりに小さな声でよく聞き取れない。

「なんだ?」
『その…下着…』

その一言にオレはナマエが言いたいことがようやく理解でき、一瞬で顔に熱が集まった。
確かに小さい頃は一緒に着替えたりもしていたが、そんなのは小学生以下の時の話で…いくら幼なじみでどんなに仲が良かったとしても、お互いの下着までは当たり前だが見たことない。

カァっと上がった顔の熱は治ることはなく、二人揃って真っ赤な顔で目線を逸らすことになってしまい…

「わ、悪かったぞ…」
と言うことしか出来なかった。

『その、ホップのも、あるわけだし…洗濯はお風呂に入ってる間に自分のを回すのじゃ、ダメ、かな…ホップの、乾燥機能の付いてるし…』
「も、もちろんいいぞ…!」

結局気まずいままで洗濯の利用についてが決まったのだった。



ーーーーー
そしてその洗濯の時間=お風呂の時間。
オレはとても悩んでいた。

「なぁ、本当に湯船に浸かるのか?」

『当然!病院ではシャワーだけだったんだよ?やっと足伸ばせてお風呂入れるんだもん。入りたいよ』
「そうだけど…あんまり長風呂したりするの、まだ良くないって言われてただろ?」
「グメッ」
ありがとうとお祝いか何かでもらった新しいバスタオルをバイウールーから受け取るナマエ本人よりも、彼女の身体を心配するのだが、当の本人はそんなことへっちゃらだとでも言うかのように脱衣所のドアを開けた。

『大丈夫。そんなに長風呂しないから』

なんて♪がつきそうな程ルンルンだ。

洗濯機にそのまま病院で使った着替えなどをカバンから引っ張り出して放り込もうとしたので、オレは慌てて後ろを向けば、大きなドラム式洗濯機の蓋がガコンと開く音がした。

『そうだ、ホップ。悪いんだけど、なんかパジャマになりそうなシャツか何か借してもらえるかな?』

「オレのでいいのか?」
『ホップ以外のがあるの?』
「い、いや、ないけど…」
『じゃぁお願いします』
「お、おう…」

ナマエが入りそうなやつ、あったかな…と手元にある服達を頭のクローゼットからひたすら引っ張り出してみる。ナマエよりオレの方が遙かに身長高いしな…オレがジムチャレンジの時のやつは…いやそれは流石に小さすぎるか。

『ホップ』
「ん?」

『そろそろお風呂、入るから閉めてほしい…』
「!?そうだよな…!!じゃぁ、お前が入ってる間に中に置いとくぞ!!」

慌てて脱衣所のドアを閉めるオレの片隅にナマエがはぁいなんてとても嬉しそうに笑う顔が見えた。

「長風呂はダメだからな!!」


ーーーーー
さて、ナマエに言われたとおり、ナマエが着られそうなシャツを出してきたのだが……果たしてコレは着れるのだろうか?

オレが出してきたのはスウェット素材のカビゴンカラーのパーカーだった。フードにはちゃんとカビゴンの顔までついていて、レディス&メンズと両方の展開があった程人気だったものだ。

アニキがスポンサーからもらったんだぜ!とくれたのを覚えている。アニキでも着られるサイズだったからかかなり大きかったのだが、それでもオレが持っている服の中ではまだ女子でも着られるデザインだと思う。

下はジムチャレンジ時代にアニキに憧れて、いつかは履くんだ!と息巻いて買った子供には大きかったショートパンツがあった。この2つでなんとかなる…か?と思いながら脱衣所のドアをノックしてから中に入る。

浴室のドアからは水の流れる音とナマエの鼻歌が僅かながら聞こえてくる。浴室から漏れ出す蒸気に乗せてボディソープの香りが脱衣所全体に充満していて、その甘く魅惑的な香りと流れる水音に思わずクラリと目眩がしそうだった。

ドキドキとやたら大きくなる胸を抑えながらサッと着替えを置いて急いで脱衣所を出る。身体が熱い気がするのは蒸された脱衣所に入ったせいだと思いたいなんて頭を抱えていたら、カビゴンが首を傾げてこちらを見ていた。

しまった、コイツらにやってもらえばよかった、なんて片手で顔を覆いながら呟いたのだった。

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