ナマエ視点
久々の湯舟は本当に幸せだった。
病院でのシャワーも勿論文句はないのだが、それでも温かいお湯の中でゆっくりと手足を伸ばしてリラックスするのは気持ちが良かった。
水の中で足を軽くパタ、パタと動かせばチャプンと水面が音を立てる。天井から落ちてくる水滴がポチャンと浴室内に鳴り響き、それだけでとても癒しの空間だ。
そういえば、と一人暮らしにしては明らかに多い数のボトルが陳列されたシャンプーラックに目をやる。
恐らくホップが使っているメンズ用のシャンプー&コンディショナーと無添加で肌に優しいユニセックスのボディソープ。
その横には淡いピンク色の女の子らしいボトルが3本置かれている。シャンプー、トリートメント、ヘアパック…どれもいい値のするもので、ガラルでこの商品を取り扱っているのはかなり限られた店舗のみである。なぜ詳しいかと言うと、これは私が普段気に入って使っている物だからだ。
あがったらホップに聞いてみようなんて思いながら私はバスタブからゆっくり立ち上がる。
少々名残惜しいがあまり長く入っているとホップにまた叱られてしまいそうなので、今日のバスタイムはここまでだ。
バイウールーから貰ったバスタオルで身体を拭いていく。先ほど放り込んだ衣類たちは洗濯機の中でグルグルと回っていて、洗濯機に住み着いたウォッシュロトムが言うにあと数分で出来上がるようだ。最近の洗濯機は本当に凄いと思う。
そんな洗濯機の上ではホップが置いておいてくれたのだろう、丁寧に畳まれた服が振動で小刻みに震えていた。
ありがたい、と思いながら服を広げるととても可愛いカビゴンのパーカーだった。
このシリーズには見覚えがある。確か一時大ブームになったものだ。私も買おうか悩んだが、当時は仕事が忙しくホテルを転々としていたので着る機会がないと断念したのだ。
それがここで着られるなんて、ラッキーかもしれない、なんて思いながらカビゴンのパーカーに袖を通す。そして一緒に置かれていたショートパンツにも。
すると…
『ん?』
カビゴンパーカーはどうやらメンズだったらしく(ホップのものだから当たり前なのだが)、裾が太ももより少し下くらいまである。
そのせいか、下に履いているはずのショートパンツが隠れてしまい、まるで履いていないかのようだ。ショートパンツもかなり短めなのか、腰の辺りまでウエスト位置を落としてもあまり変わらなかった。
どうしよう…と一瞬悩んだがすぐに、
まぁ履いてるからいいか!幼なじみだし!なんて一人でに解決し、ホップの待つリビングへと向かった。
リビングに入ればテレビがついていてホップはこちらに背を向けながら落ち着きがないようにソワソワとしていた。
『あがったよ〜』
「うわぁぁっ!!」
後ろから声をかけると、ホップは飛び上がらん勢いで振り返り、そのまま私の姿を見ると慌てて目線を逸らした。
「お、お前、なんて格好してんだよっ…!?」
『何て格好って…ホップが出してくれたんでしょ?』
「そうだけど…!一緒にショートパンツもつけてただろっ!?」
あぁなるほど、ホップにはショートパンツがパーカーで隠れて見えてないから…
『ちゃんと履いてるよ?ほら』
なんてパーカーをめくり上げれば、
「な、なにしてんだっ…!?」
なんて赤面してしまう。
だから、履いてるって…
「分かった。分かったら…!」
チラリとこちらを横目で確認したホップは、はぁビックリしたぞなんてため息を吐いている。
そんなホップの隣に座れば、やっとちゃんとこちらに目を合わせてくれた。そしてチラリと私の足下をみると、「明日、パジャマ、買いに行くからな」なんて憎々しげに呟いた。
ホップ視点
まさか彼シャツならぬ彼パーカーがこんなにこうかばつぐんだとは思わなかった。
雑誌などで見る機会もあったが、「へぇ、そんこともあるんだなー」くらいにしか思っていなかった。
だから、今回ナマエが風呂から上がってきた時にはもうどうしていいのか分からなかった。
だって、ショートパンツが見えなくて、まるでちょっと短めのワンピースを着ているようだったんだぞ!?それはもう狼狽えるだろ。
一応、履いていることは確認できたから、隣に座ってきたナマエに目を合わせることは出来たけど。どうしても視線はつい下に行ってしまう。
入院中にあった痣は綺麗に消えていて、今は真っ白で細い綺麗な足が惜しみなく出されていた。
そんなオレの視線も露知らず、ナマエは平然とオレの隣に座って何かを話しているが、オレはと言うとナマエから香ってくる甘い香りにクラつきそうだった。
その香りはナマエが普段から気に入って使っているシャンプー(勿論買いに行った)の香りと、あとはオレが普段使ってるボディソープの香り。
そんな香りを纏ったナマエの髪は濡れていて、その頬も血色のいいピンク色でどこかとんでもない色気を放っているような気がする。
好きな女の子のお風呂上がりってこんなに大ダメージをくらうものなのだろうか…
ぼんやりする頭をフルフルと振り、両手で頬を叩いた。しっかりしろホップ。今日からこれが日常なんだぞ、慣れなくてどうするんだ…!
『ホップ?どうしたの?ぼんやりして。熱でもでた?』
そんなオレの決意もどこへやら…
ナマエがスッとオレの額へと手を伸ばしてきた。途端、一段と強くなる香りと近くなった距離にオレの頭はもう混乱しそうだ。
これ以上はマズイ!そう思ったオレは急いでソファから立ち上がり、
「オレも風呂入ってくるな!先に寝てていいぞ!!」
なんて一目散に逃げ出したのだった。
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