▲ パッション・フルーツの果て

「俺をあいつの代わりにすれば」
そう言ったのは、本心ではない。代わりでいいなんてこれっぽっちも思ってはいないが、▲▲が【気になる彼】の話をする度に、傷付いている自分の心よりもどうしてこんなにも可愛らしくて愛らしい彼女が俺のように辛い思いをしなくてはいけないのか、と憤りを感じていたからだ。しかし、容姿も性格もまるで似ていない俺を代替えにしたところで▲▲が満たされる筈もなく、言葉を口にした後にそれに気付いた。
「あー、いや、代わりっていうか、寂しさを埋めるくらいならできるよっていう感じの……意味」
急に恥ずかしくなって、後頭部をぽりぽりと掻きながら視線を床へ落とす。これじゃあザ•恥ずかしいです丸出しじゃないか。まったく、格好付かないなあ。俺。
「あいつってだれ?」
「誰って……いつも▲▲が話してる男。及川でしょ。代わり、なんて言ったけど見た目も違いすぎるし俺には代わりなんて出来ないよね。はは、俺なに言ってんだろ。馬鹿だな、ごめん」
気まずい空気に耐えられずペラペラと喋り出した自分の口は思ったよりも滑りが良くて、うまくいけば今日のことを流して今まで通り仲良くいられるような逃げ方が出来るかも、なんて考えていた。▲▲が笑って、そーだよ松川って言ったら俺の恋路はゲームオーバーになるが俺たちの関係は終わらない。俺は、そのほうがいい。▲▲と一緒に笑える人生の方が、▲▲のない人生より
「松川、なんだけど」
くどくどとネガティブが走り回っている頭に、▲▲の澄んだ綺麗な声が響いた。幻聴のような言葉だったが、思わず目を向けた先に佇む▲▲はもじもじという言葉が似合う様子で、先程の俺のように視線を床へ落とした。
「……普通、本人に悩み相談とかする?」
嬉しさより信じられないが勝つ頭と、前者が勝つ口角が気持ち悪いなと思って口元だけ手で覆って眉間に皺を寄せて下を向く▲▲の顔を覗き込むと、ほっぺたを紅潮させてへらりと笑った。
「だって松川、全然気付いてくれないんだもん」
「気付かんでしょ、そりゃ」
「松川のアドバイス全部ちゃんとやったじゃん。ほら、髪長い方がいいって言ったから伸ばしたしさ」
「あ〜。練習されてると思ってたわ」
「ひどい」
「……▲▲、」
こっちを向いた▲▲に触れるだけのキスをする。
「すき」





title by 婀娜 さま