「あ゛づ〜い」
蝉がミンミンと叫ぶ中営業先から事務所へ戻ると、どうやら冷房の調子があまり良くないらしく修理中だそうで、室内は外ほどもないにせよしっかり暑さが篭っていた。
「るっせェんだよお前」
「いやいや、煩いとかじゃないでしょこれ。労働環境としてどうなの!」
「そら調子悪い時だってあらァ!みんな暑い中我慢してんだから叫ぶな」
「やだやだ辛いこんなことなら今日丸一日外予定にすればよかった!」
「そんなん言ってたら内勤に嫌われるぞお前」
荒北さんは持っていた書類で私の頭をパン、と軽く叩くと、おら!サボってねェで仕事しろ。と去っていった。なんだあいつ、感じ悪。
「ビール飲みたいビール飲みたいビール飲みたい」
「●●さんそれまじでわかる。暑すぎて死にそうなんだからビールぐらい出してこいよって感じだわ」
「いやまじで〜!仲間いて良かったですわ!荒北ビール寄越せよ〜!つって!」
「聞こえてんぞ〜」
いつのまにか戻っていたらしい荒北さんはこめかみをピキピキと動かしながら私の背後に立っていた。ビール仲間さんはいつの間にか私の前から消えていて、おそらくこの鬼に気付いてそそくさと逃げたのだろう。
「誰が鬼だコラ」
「読心術キツ〜」
「お前思いっきり鬼が来たっつってたぞ」
「荒北さん、そんなことはどうでもいいんです」
よいしょ、と上体を起こして荒北さんに向き合って目を合わす。
「ビール差し入れてください」
ぺこりと一礼した頭をまた叩かれた。いや、これパワハラだろ!いい加減にしろ!
「っざけんなお前仕事中だっつの!」
「真面目かよ!」
「ちったァ真面目になれよお前も!」
「え〜…荒北さん、まじでしゅわしゅわしたの、飲みたいなぁ」
「あーうるせェこいつまじでうるせェベプシでいいですか」
「いやです!ドクターベッパーがいいです!」
「んだそりゃ!ベプシでいいだろ」
「ドクベでお願いします」
「うるせェお前まじでうるせェ」
その後律儀にみんな分のベプシを買ってきてくれた荒北さんはなんだかんだ言って優しい。
「ドクベが良かったなぁ」
「お前は飲むなもう」
「差別やそんなん!」
「差別じゃねェだろ平等にベプシ買ってやってんだから文句言うな!」
「か〜!荒北さんみんなに差し入れあざっす!かっけっす!」
「わざとらしいんだよお前鼻につくな!」
「荒北さんキレすぎていつか血管いきそうですね」
「誰のせいだコラ」
「荒北さんってなんだかんだ●●さんに優しいよね」
「わかる〜。優しいってか恋だよね」
「間違いない、恋だね」
「おいお前らなんか言ったかよ?」
「「「なにも〜」」」