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元来恋愛脳である自覚はあった。
しかし数年前に本気で好きになって全力で落として全身全霊で愛した男をぱっと出の女に寝取られてからというものの、私は恋愛に臆病になり以後のらりくらりとしただらしのない関係ばかりを築いている。
性欲はセフレで満たし、心は自分投資自己肯定で満たす。ここ数年はそれで楽だったのだが、先月何気なく入ったカフェで知り合った彼になんとなく惹かれてしまい、なんとなく仲良くなり、なんとなく逢瀬を重ね、なんとなく心がときめきだした頃、
なんと体の関係がないまま頗る健全に告白をされお付き合いを始めてしまったのだ。
ちなみにキスすらまだなの。
ティーンかよ。
「あぁそういえばなんだけど、彼氏できたから今日でえっちお終いね」
ベッド下に脱ぎ散らかした服を手探りで探しながら私は隣で寝ていた男にそう伝えた。彼は一番付き合いの長い夜のお伴だ。昔は失恋の傷もあって男女問わず数人いたセフレの中でも彼とは一番性格的にも肉体的にも相性が良くて、気付けば最近は彼としか会っていなかった気がする。今日だって会うのが彼でなければ彼氏ができたからという理由で約束を断っていただろう。
「急だね」
「先月知り合ったんだよ。イルミ最近仕事忙しかったじゃん」
話すタイミングなかったの、と付け加えれば彼、イルミは「そうなんだ」と呟きすっと私の腰に手を回した。「まだするの?」と顔を顰める私の上に跨りながら「だって今日で終わりなんだよね?」と首を傾げる。男の癖にあざとい可愛い顔が良い。
「もうきついよー。久々だから今日のイルミねちっこいもん、私くたくたぁ疲れたぁ」
「好きなくせに」
ぱくりと唇を噛み付かれ静かな部屋にリップ音と滴る音が響きだし私も再度ムラついてきた時、不意にサイドテーブルに置いてあった私の携帯から着信を知らせる振動が伝わりふと動きを止めてそちらを見る。
画面に表示されている名前はもれなく彼氏になった例の彼の物で。
血生臭い職場関係の中、堅気でカフェテリアで必死に働きながら顔を真っ赤にさせ私をデートに誘う彼の純朴な顔が脳裏に浮かぶとつい今しがた昂ぶっていた欲がじわじわと引いていくのを感じ私はイルミの口に手を押し付けnoの意思を表明した。
「なに?邪魔なんだけど」
「言ったでしょ。もうお終い」
イルミの事は普通に好き。だから少し寂しい気はするが、こればかりは仕方がない。
着信は既に切れていた。今すぐ掛けなおす気分でもない私はイルミを押し退けるとベッドから起き上がる。
今の私は彼に会いたいわけでもイルミとえっちしたいわけでもない。
強いて言うならばシャワーを浴びて着替えて美味しいご飯を食べたい。
「どこ行くの?」
「シャワー浴びてくる」
「俺も行こうかな」
「えっち無しなら髪洗ってあげる」
ん、と彼に手を伸ばせば大人しく手を握ってくるのでそのまま起き上がらせると手を繋いだまま浴室へと歩き出す。「ドライヤーもしてね」という彼に思わず「ワガママだなぁ」と私は笑うのだ。