「久しぶり」
「久しぶり。ごめんそれよりもなんで私の家知ってるの?」

滅多にならない我が家のインターフォンが鳴ったものだから、てっきり酔った勢いで何かネットショッピングでもしたかと記憶を巡らせながらモニターも大して確認せずに扉を開ければ、そこにいたのは数ヶ月ぶりのイルミである。
何故来たのかというよりもまず何故一度も家を教えていない彼が私の家を知っているのかという疑問の方が強かったが「うちのに調べてもらったんだ」という一言で納得せざるを得なかった。そうだこいつはお坊ちゃま。しかもそん所そこらのお坊ちゃまではない。あのゾルディック家。私ごときフリーランスの下っ端暗殺者の所在なんて朝ごはんのメニューを聞く程度の容易さだろう。

まぁいい、それはそれとして。

「何か用?今ちょっと家散らかってるから外で話そうか」
「気にしないから早く入れてよ」
「私が気にするの。着替えてくるから向かいのカフェでコーヒーでも飲んで待ってて。あそこスコーンが美味しいよ」
「3ブロック先のコーナーのカフェじゃなくていい?」
「最低。死ね」

そのままドアを閉めようとすると「ごめんごめん」と全く悪びれる様子もないイルミは無理矢理ドアを抉じ開ける。どうせ彼と力比べしても負けるし、この嫌味の言い草だとカフェテリアの彼との事も知っているのだろう。諦めた私は「リビングの壁の事を少しでも聞いてきたらイルミとは一生喋らないからね」と彼を家に招きいれることにした。

数ヶ月前に3ブロック先のコーナーのカフェで働くカタギの男と久しぶりにまともな恋愛を始めた私だったが、あの純朴さはいったいどこへ行ったのか。
先週彼が同じ店で働く胸の大きなウェイトレスの女と浮気している事が発覚し、ぶち切れた私が数ヶ月ぶりに長年の相棒であった魔改造ショットガンを押入れから引っ張り出し彼に向けてぶっ放した所でこの恋は見事に終了した。
殺したかって?まさか。ちゃんと当たらないけれど彼のトラウマになる程度の距離で撃ちましたとも。
ただ、腰を抜かし失禁しながら涙鼻水涎まで出るところ全て垂れ流しながら這いずってでも私の部屋から逃げ出そうと怯える彼と、どでかい穴が空いたリビングの壁を見た途端にパンピー相手にやりすぎたと妙に冷静さを取り戻したのは事実である。
ぐるりと黒目を一周させ、大きく深呼吸した頃には【戻ってきた私】は未だひぃひぃと廊下で泣き喚く声の元へと大股で近寄り、その首根っこを掴むと玄関のドアを開けて外へと放り投げた。そして足早に部屋に戻ると歯ブラシや服などもまとめてゴミ袋に詰め込み、外にいる粗大ゴミに向かって投げつけると言ってやったのだ。

「てめぇとあの糞ビッチを次にこの街で見かけたら顔面に鉛球ぶち込んでやるからな」

結局の所、問題を暴力で解決してきたタイプの人間はカタギには戻れないのである。



「うるさい」
「俺何も言ってないけど?」

リビング入ってきたイルミは私に何かを聞いてくる事はなかったが、ただただじっと壁に空いた穴を見つめる姿を見れば嫌でも何してるんだお前と責められているようで苛々してしまう。しかし一応は招かれざるとはいえ客人なので「コーヒーか紅茶か淹れようか?」ともてなす姿勢を取れる私のなんて出来た人間だ事か。

「要らないよ。それよりも▲▲に渡すものがあってきたんだ」

首を傾げる私の手を引くとイルミはリビングのソファに座るよう誘導する。
ぎしりと2人で並んで座れば彼は持っていた紙袋を私の膝に乗せた。

「なにこれ」

中にはぎっしりと入った紙の束、書類?と小さな小瓶が一つ。
気になってとりあえず小瓶だけを取り出すとそこには謎の液体が入っている。

「それ毒ね」

なんの冗談だ。突然すぎて笑いのポイントが全く分からないが、とりあえず「はははおもろ」と棒読みで返してみたが彼は笑わない。え?どういうこと?

「とりあえず毎食1滴ずつで淹れて段階的に摂取量を増やしていこうか。あとそっちはトレーニングメニューね。時間が合えば俺も付き合うけど基本的には毎日そこに書いているメニューをこなして貰って、」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!私まだ状況よく分かってないから!」

手でストップをかけてみるもイルミはきょとんとした様子でさも当然に「だって別れたんだよね?」と一言。

「そうだけど、そうだけれども、それがどうしてこれに繋がるの?」
「俺もこの数ヶ月色々考えてみたんだけどさ、お前の言った恋人っていう役割はまぁ俺には重要ではないけど、この先必要になってくる婚約者の役割になる人物を考えたときに▲▲を育てたほうが効率いいかなって」

▲▲も結婚したいって言ってただろう、と何のフォローにもならない付け加えに私の顔がぴくりと強張る。元々人の事を考えないタイプだとは分かっていたが、久々に会って早々これは頭が痛い。

「一応聞くけどその話を私が拒否するとは考えないの?」

と恐る恐る彼の顔を見れば再びきょとんと傾げる首。

「なんで?」
「なんでって、」
「だって▲▲は俺の事好きなんだし、稼ぎもあって体の相性もいいなら他に何が必要?恋人の役割の奴がいなくなったなら俺が次のそれになっても問題ないよね」
「違うって!役割とはいったけど基本的に恋愛をするならちゃんと相思相愛が大前提で、」
「俺も▲▲好きだよ。一番付き合いの長いセフレは▲▲だけだし」
「いや、まぁそこはそうだけどなんていうか、一途さ?みたいな?私浮気は無理だし意外としっかりヤキモチ焼くヒス女だから」
「なんかめんどくさいなぁ」
「でしょ?」
「分かったよ」

なにが?と私が聞くより早くイルミは自身の携帯を取り出すと何やらぽちぽち触ったと思えば、「女の連絡先全部消したから。これでいいだろ?」これからよろしくね。と棒読みで言うもんだから頭が痛くなった。
人の話なんて聞いちゃいない。

「それで。勿論お前も消すよね?ほら携帯貸して。あと仕事だからって男と2人きりで会うのはやめてね。それと電話は毎日、」
「おっと待てさては君も同じ穴の狢だな」