▲夜と沈む

携帯が音を立てて震える午前1時。私は明日も仕事だと言うのに、心を弾ませてその通知を確認する。そして表示された想像通りの名前にどくんと脈を打つ。
「もしもし、」
「あー悪りィ、寝てたァ?」
「寝てたけど…大丈夫」
「そっかァ。でもまァ寝てたなら悪いから今日はやめとくわ」
「人のこと起こしといて勝手なヒト」
「あァ?じゃあ今から来れんのォ?」
躊躇いもせず”いいよ、”なんて吐き出す私はつくづく都合の良い女である。
外してから数時間しか経っていない目にカラコンを装着して、落として数時間しか経っていない肌にまたファンデーションを塗り、しかし決まり過ぎて引かれないように服だけ少しラフにして車のエンジンをかける。いつこうして呼ばれてもいいように夜に酒を飲むのをやめたのは果たして何ヶ月前だっただろうか。
すっかり通い慣れたその建物の近くのコインパーキングへ車を止め、携帯を鳴らす。ワンコールで切って暫くすると靖友から丸のポーズの絵文字だけが送られて来るので、それがきたら車を出てエントランスから靖友の号室を押すと直ぐにオートロックが開く。入って直ぐのエレベーターに乗り五階へ辿り着くと、ガチャ、と少しだけ開いた部屋に駆け寄る。
「▲▲チャン元気すぎだろォ」
どうやら風呂上がりらしい靖友からは嗅ぎ慣れた石鹸の香りとほかほかとした特有あたたかさが漂っていた。
「呼びつけといてなによ、」
「まァまァ怒んなよ」
靖友の右手が私の首に回ると、私の髪の毛が背中側へ流れる。それからこぼれた髪の毛を指でゆっくりと耳にかけた後、それが合図のように靖友の唇が降って来る。
「っ、ふ、」
「っは、▲▲チャンヤル気満々ね」
「何のために来てると思ってんの、」
「最高、」
なんて、靖友が喜ぶ嘘ばかり吐くのが上手になってしまった。
靖友の手が私の首から服に下り、着たばかりのそれをゆっくりと脱がせていく。
今日もまた、夜に沈む。