▲世界が閉ざされる

眩暈がした。
ぐるぐると視界が回り、動悸がし始めると暑くもないのに汗がたらたらと落ち始め、呼吸が荒く浅くなる。ドン、と音が聞こえた時、その音が何の音なのかわからなかったが、どうやら自分の体が床に倒れ込んだ音だったようだ。冷たくて痺れている指先を少し動かせば、ぬるっとした液体に浸る。
「きもちわるい、」
どくん、どくんと心臓が揺れる度、視界が大きく揺れる。それに合わせるように目を回すと、靖友の顔が浮かぶ。ぼやけた視界ではしっかりと見えないが、この顔は間違いなく靖友。
「や、…す」
「ハァッ…ハ、…▲▲が悪い、▲▲が…▲▲が…、▲▲が!!ハ、お前ェが悪いんだよ!!」
見たこともない剣幕で怒鳴る靖友の声に眩暈がひどくなる。
「別れる…?ふざけんな!!」
呼吸が荒いのか、靖友の肩が上下に揺れている。はぁ、はぁ、と靖友の荒い息遣いだけが響いていたこの部屋にその後物音がしたのは、恐らく包丁が床に落ちた音。

「▲▲…、」
感覚さえもう鈍くなっているらしい。閉じていた目を開けると、いつのまにか私の元へしゃがみこんでぐしゃぐしゃの顔で泣いている靖友が私の肩を抱き上げているようだった。
「や、…とも、」
「俺ェ、…別れたくねェよ、」
私の名前を呼んだ後、好きだ。と言う靖友の声を聞いて、返事をしたいのに、そんな力さえも出てこない。つい目を閉じてしまったその瞬間、私の意識は深い海へ堕ちた。