前回の続き
「結局12時越えちゃいましたね」
“あと3つぐらい”と答えた期限が迫っている仕事はぐらいの部分に残り3つ程度潜んでいた。12時を過ぎて20分が経ったこの部屋には、どことなく疲労感が漂っていた。
「悪りィな…付き合わせて」
「私が勝手に参加しました」
少し、後悔してますけど。と言った●●は、メガネを外して鼻の付け根をぎゅうと摘んでいた。
「先輩は毎日こんな感じなんですか」
「毎日ではねェけど」
この程度でもない、という言葉は飲み込んだ。しかしそんなオレの間を察したのか、●●はギギギと椅子の音を立てながら伸びてる。
「弊社やべ〜」
「今更かよ」
「私はこんなことないですもん」
「…こうならねェように気をつけとけー」
「荒北さん、流石に枯れ過ぎ」
「お前オレのこと舐めてんだろ?」
「舐めてたら手伝わないでしょ、仕事」
「…そりゃどーも」
日中の決意も虚しく日付を超えて帰宅の準備を始めるオレは、いつまでこうなのだろうか。
「てかお前家どこ?」
「……夜這いですか」
「バァッカ!終電もう終わるだろ」
「ああ…なーんだ」
なーんだってなんだ。まるで夜這って欲しかったみたいに感じてしまう。
「荒北さんって、ご結婚されてましたっけ」
「するヒマもねェよ」
「ふーん。じゃあ荒北さんの家でご飯ご馳走になろうかな」
「バッ、何言ってんだお前!」
「さっき何食べたいか考えとけーって言ったの荒北さんじゃないですか。…それ、考えたけどこんな時間もう閉まっちゃいます」
「…、」
「あれ、約束反故にするんですか」
まるで挑発するようにニタニタと笑う●●をオレは初めて見た。こんな顔もするんだな、なんて、オレ何目線だよ。
「いいけどコンビニ飯な」
「酒があるならいいですよ」
「ハイハイ、早く準備しろ」
「はーい」
カバンに携帯を詰めて、コートを羽織る。パチパチと周辺の電気を消せば、いつもより近い距離に●●がいた。
「なんか、いけないことする気分です」
「お前はな」
「えー?」
今日こそ早く帰るという願いも消えて残業する羽目になったとはいえ、なんだか今日は良い日な気がした。