「ちょっと、部屋間違えたんじゃないですか」
「あ?自分ん家を誰が間違えんだよ」
「いやいやココは人住んでないですって」
「オレが住んでんだよ」
見事に殺風景な部屋に、気味の悪さめいたものを感じた。
「お前失礼だな、聞こえてんだよ」
「ヒエ、」
殺風景過ぎるとは言ったものの、ベッドと小さな丸テーブルがあるあたり、本当に荒北さんはココで暮らしているのだろう。
「なんか…人の家に言うことじゃないですけど、無味無臭ですね」
「何言ってんだお前」
呆れたように言ったあと、少し何かを考えるような素振りをしたかと思えば、臭せェよりいっか。と1人で納得していた。
「マイクロウェーブもないだと!」
「あるわ!…んだよマイクロウェーブって。レンジだろレンジ。なんならチンだわ」
「なーにぶつくさ言ってんですか」
不機嫌がちにさっき買ったばかりのコンビニ惣菜をレンジに突っ込んでいる。
「皿に移すとかいう概念は無くていいですけど、まとめて全部します?普通」
「いいだろ別にあったまれば」
「がさつ〜」
「うるせェ、座ってろ!」
「ワンッ」
座布団はおろかカーペットすら無い床に直で座って荒北さんのチンを待つ。ホントに無味無臭だな、この部屋。
「あんま人ん家でキョロキョロすんな」
「いや〜、流石にやましいモノひとつなさすぎて」
「追い出すぞ」
「仕事手伝ってあげたのに〜?」
「うるせェわコイツ」
思ってた感じと違う、と言われたので、勝手に人物像作り上げて思い込んだそっちが悪いと言い返したら、やれやれと呆れた様子で首を横に振っていた。
「ん、」
「ありがとうございます」
「じゃ、カンパイ」
「ういっす」
プシュといい音が鳴ったそれを一気に飲み干して、ぎゅうと右手に力を込めると、派手な音を立てながら缶がつぶれる。
「お前飲み方男かよ」
「ああ、癖で…」
いつも家でしている流れでついやってしまったことに、ほおに熱が帯びる。
「ま、そりゃ浮気旅行にも行かれるかー」
「ひどい!今それ私が1番気にしてることなのに!」
「ひどいのはオレじゃなくてお前の彼氏じゃねェの?」
芯を突く一言にモゴモゴと口籠ると、荒北さんは茶化すでもなく、いつもの鋭い目が嘘のように暖かい目つきに変わり、眉を顰めた。
「別れた方がいいんじゃねェの?って、そりゃ思うけどさ、当人からしたらそれが簡単じゃねェから辛れェんだよな」
「荒北さん…」
「同棲もしてたら尚の事別れない理由はいくらでも作れる」
「…」
「でも、今お前が傷付いてる。それが答えだとオレは思う」
気まずくて逸らした目をもう一度荒北さんに向けると、真っ直ぐに私を貫いていた。
「もし別れて居場所がないならココ、ちょっとの間なら泊めてやるよ」
「荒北さん、」
「さ、次はどれ飲みてェの?」
缶が数本入った袋を私に手渡す荒北さんは、私が何か言うことは求めていないらしい。
「荒北さん、優しい」
「そォだよ、オレみたいな男選んどけよ」
ついポロポロと涙が溢れる私を責めるでも無く、ヨシヨシと頭を撫でたかと思えばティッシュを渡してくれた。
「うん、荒北さんにする」
「生憎好かれてもいねェ女と付き合うほど困ってねェんだよ」
「…ふーん、好きでもねェじゃないんだ」
「余計なコト気にしてんじゃねェよ」
そっぽを向いた荒北さんの耳は仄かに赤く染まっている気がした。