▲fktw
激務。激務激務激務。
殺しても殺しても終わらない仕事にここ数日の私は辟易していた。
殺し屋に繁忙期なんてあるのかよと思うくらいに立て続けに入った依頼を選り好みできたらいいのだが、中の下ランク暗殺者にそこまでの余裕はない。
しかも斡旋してきたのが付き合いのあるゾルディック家の長男だから断れるわけもない。
断ろうものなら、私の脳天に針が刺さりかねない。
そんなこんなで肉体的、精神的にも疲労が溜まりまくりストレスフルな私は昨夜最後の仕事を終え、油ギトギトなテイクアウトと大酒をかっ食らった後、何を思ったのか突然ピアスの穴を増やしたい衝動に駆られてしまった。間違いなく酔っていたのだろう。しかし駆られてしまえば早いもので手頃な安全ピンを見つけるとライターで適当に炙り、そして、ぶすり。鏡に映った私は右耳の軟骨に安全ピンをぶら下げて酷い面をしている。ズキズキと広がる痛みと熱に、あぁ私ちゃんと生きてるわーなんてから笑いをすれば、馬鹿らしくなってそのままベッドで寝た。
メンヘラかよ。
「お疲れ」
その声に目を覚めると、私の部屋なのに当たり前のようにイルミゾルディックがいた。眠気眼でベッドサイドの時計を見ると時刻はまだ夜中。眠りについてから1時間ほどしか経っていない。彼の突然の訪問は初めてでない。初めてではないが、勘弁してくれ。
「もおおぉ…明日にしてくださいよぉ」
声を絞り出すが、目の前の男が、じゃあ明日出直して来ます夜分遅くに失礼しましたなんて言うわけがないので私は重い体をどうにか起こしながらベッド脇に投げていたオーバーサイズのTシャツを引っ掴む。私は寝る時に基本下着姿なのだ。不法侵入とはいえこのまま彼の相手を出来るほど羞恥心は捨てていない。
「終わったらすぐに連絡って言ったよね」
「しましたしました。イルミさんが電話に出なかっただけです」
「それで?ちゃんと始末できた?」
「できてなかったら帰ってすやすや寝てませんよ」
はいこれ。と依頼完了の証拠ともいえる現場の写真を手渡す。イルミさんはそれを見ると満足そうにポケットに入れて「口座に振り込んどくから」と一言。
思ったよりすんなり終わった確認作業にそれなら夜中に叩き起こさなくったって明日とかでもいいじゃんと言ってやりたかったが、そんな勇気が私にあるわけもなく、「あざます」と情けなく呟くのが関の山であった。
「ねぇ、なにそれ?」
不意に聞こえた声に、顔を上げるとイルミさんが手を伸ばしそっと私の耳に触れた。耳が腫れているせいか、イルミさんの指先が冷たいせいなのか分からないが妙にひんやりとしていて気持ちいい。何のことかと思えばまぁ耳に刺さっている安全ピンの事以外ありえないのだが、酔っ払ってたとはいえストレス爆発して耳に穴開けましたなんて恥ずかしくてとてもじゃないけど言えるわけがない。こちとら思春期なんてとっくに終わってる年齢なのだ。
「ピアス増やしたいなぁて思いまして」
「安全ピンで?」
「割と聞く方法かと」
「お前のそれ軟骨だよ?」
「ぶっ刺してやりました」
ご存知の通り強化系なもので。と付け加えると露骨に引いた顔をするイルミさん。「強化系って言えば頭おかしい免罪符にならないからね」出会った当初は表情筋死んでる人だと思ったけれど以外にそうでもないと知ったのはこの頃の話である。
「それ。いつまでぶら下げないといけないの?」
「え?あぁ…まぁ、なにせ衝動的だったもので明日にでも適当に買いに行ってきます」
「あっそう。なら昼に迎えに来るから」
「え?」
「臨時ボーナス。俺が選んであげる」
え?!と状況が読み込めない私をよそに一方的に約束を取り付けた彼はそそくさと玄関のドアを開けて帰って行く。ちょっと待ってと呼び止めたが時すでに遅し。取り残されたのは間抜け面の私だけ。
あの言い様だとピアス買ってくれるのだろうけれど、正直せっかくの休みなのだから1日寝たかった。
今からでもメールでお断りしようか、そう思い慌てて携帯を握ったが、下手に断ればピアスどころか耳に彼のあの禍々しい針を刺されかねないと思い私は大人しく携帯をベッドに放り投げる。
もういいや。
こうなればいっそ高い物を強請ってやる。
そうなれば耳の痛みも心の虚しさも体の疲労も全て吹き飛んでいくのだから私という人間はなんて単純な生き物なことか。
ちなみにイルミさんがこうしてさり気なく私のメンタルケアをしてくれるのはこれで3回目である。
ほんとごめんて。