「ちょっと、いい?」
放課後の私たち以外誰もいない教室で、この瞬間を待ってましたと言わんばかりに荒北くんの鋭い目線が私を貫く。
「うん?」
「お前ってェ、東堂と付き合ってんの?」
つい驚きの表情で荒北くんを見てしまった。私に敵が出来るからと2人の秘密だと言っていたのに、彼は荒北くんに私とのことを伝えたのだろうか?
「どうしてそんなこと?」
「ま、その返答は肯定みてェなモンだな」
「そういう訳じゃないけど」
「ああ、いいのいいの。別に誰にも言わねェし」
呆れたような表情で私を一瞥する荒北くんの真意が私は全くわからないでいた。耐えかねてなに?と問えば、うーん。と悩むようなそぶりを見せて私のいる場所から少し離れた所の席に背もたれに抱きつくようにして座ると、私をじーと眺めている。
「やめた方がいんじゃねェの」
「…は?」
「オレはァ、お前を心配してっから言ってんの」
ようやく何かを言い出したと思えば、冗談にしては私を傷つけるには十分すぎる言葉だった。
「なにそれ」
「お前はちっとも疑ったりしねェの?自分と同じような状況の女が他にもうじゃうじゃいるかも、とか」
「証拠でもあんの」
「なんでオレにキレてんの。オレは親切心で教えてあげてんだけどォ」
「……、」
「まあわからなくもないけどね。信じたくない現実ってヤツだろうし」
キツくなったのか体を90度回すと、抱きしめていた背もたれに左腕を預けて長い脚を組んで私に向き直る。その視線はまるで私を見下すようだ。
「疑うなら今、電話でもしてみればァ?女といる筈だから」
荒北くんの人差し指は手元の携帯を指す。
「お前にとっては唯一の1人なのに、アイツから見りゃ大多数の1人だよ。んなモンふざけんなって思わねェのかよ」
「……思う、けど」
「けど、今の関係を捨てきれない?」
読心術でも使えるのかと思った。私が何かを考えるたびに、全て荒北くんの手のひらで転がされていて、私の心の声は荒北くんの唇から溢れていった。
「じゃ、お前にとってもアイツを大多数の内の1人にすっかァ?」
「っ、なに言ってんの、」
「バカな女でいいのかァ?今ならオレェ、手伝ってあげれるよォ?」
荒北くんは見たこともないような意地悪な表情で笑っている。
「色んな女の子にこんなこと言ってんの」
「バァッカかアイツと一緒にすんな」
「じゃあなんで」
「わっかんねェ?」
「わかんないに決まってるでしょ、」
がたん、と椅子が床に転ぶと荒北くんは私の目の前に居て、なにが起きているかなんて考える暇もない。荒北くんの手は私の後ろ首を掴んでいて、私の唇は荒北くんのそれで覆われていた。
「ちょ、っ…と、」
「スキだからに決まってんだろ、お前が」
「っ!」
荒北くんの圧に耐えられず、つい後退りをすると後ろの机に触れてそこに座ってしまったのを逃さないと言わんばかりに荒北くんはそこに迫っていて、私の座った両サイドに手をついた。
「荒北くん…、」
「…▲▲…?」
「っ!尽八くん!?」
「ッチ、…はぁ、バァッカバカし。イイトコだったんだから邪魔すんなっての」
荒北くんは興醒め〜と言いながら乱れたシャツを正して教室を後にする。
「尽八くん…、」
「大丈夫か?なにもされていないな??」
私に駆け寄る尽八くんは一切私を疑う様子もなくて自分が惨めになる。そして、唇に残っている荒北くんの熱がとてつもない大きさの罪意識と、少しばかりの高揚感を感じさせる。
「怖かった…!」
スラスラと出た言葉はよく言えたモンだと思う。本当はあのまま…なんて考えてしまっている自分が嫌だ。
私、最低だ。