「▲▲、来週の土曜日なんだが、時間をもらえないか」
部室の隅でデータ記録を整理している▲▲に耳打ちする。▲▲はそれに驚いた様子で、体をびくんと跳ねさせて、頬を赤らめていた。
「ど、よう大丈夫です」
「よかった。では練習の後、一緒に食事を取ろう」
「はい、わかりました」
動揺を見せたのは最初の一瞬だけで、▲▲は直ぐにマネージャーの顔に戻った。
ううむ、そういうつもりではなかったのだがな。
「…では、”可愛い”▲▲の姿を楽しみにしているよ」
「っ、東堂さん、」
「ハハッ、照れているのか?可愛らしいじゃないか」
「茶化さないでください」
「茶化してなどいない。土曜日は、楽しみにしている」
涼しい顔をして▲▲の元を去れただろうか。ドキドキと脈打つ鼓動が煩い。
当日を迎え、練習が終わった後シャワーで汗を流し私服に着替え、部室へ戻った。生憎▲▲はまだ来ておらず、適当な椅子へ腰を掛けて▲▲のまとめてくれたデータを眺めていた。丸っこい如何にも女子という字ではなく、ハッキリと凛々しくしかし整った▲▲の字はまるで▲▲の性格そのものを表しているようだった。
「わ、お待たせしてしまい申し訳ありません」
「うむ、構わない。……いつも美しいが、今日は一段と美しい。俺のために準備をしてくれたのだな。ありがとう」
「東堂さん、そんな恥ずかしいことをよくそうサラサラと」
「恥ずかしくなどない。本当に思っているのだ」
「……東堂さんって、モテるでしょ」
「ああ。俺の人気を知らないのか?」
きっと頭に浮かんだ光景は等しく、少し間をおいてぷ、と吹き出せば、▲▲も同じタイミングで吹き出していた。
「そういえば、今日はファンサ全くなかったですね」
「ああ。事情があってな」
「ファンの子達はきっと今日は東堂さんにとても伝えたいことがあったと思いますよ」
「うむ。だからだよ」
立ったままだった▲▲を隣に座らせ、手を握る。
「▲▲からは俺に伝えたいことはないのか?」
「はい。お誕生日おめでとうございます、東堂さん」
「ありがとう」
「私が言わなかったからファンの子達にも会わないようにしてたんですか?」
「そうだ。…この先、俺の最初はすべて▲▲のものだ」
「東堂さ、」
驚いた様子で目を丸くさせた▲▲のサイドの髪を空いた手で耳にかけ、そのまま口づけた。
「今までで一番幸せな誕生日だよ。ありがとう、▲▲」
▲▲は恥ずかしそうに頬を赤らめている。
「…して、▲▲」
「な、なんでしょうか」
「いつになったら”尽八さん”と呼んでくれるのだ?」
「そんなことより!お腹空いちゃいましたから行きましょう、ごはんに!」
「はぐらかしているのか?」
「お腹空きすぎてお腹がグーって鳴いちゃいそうなんです!行きましょう!じ、…んぱちさん、」
「……最高の誕生日プレゼントだよ、▲▲」
倒れてしまいそうなほど顔を赤くした▲▲は、誕生日プレゼントは別であるんですよ、とカバんを漁ろうとしたところを制止した。
「物より、▲▲の方が嬉しい」
「もう…勘弁してください」
「ハハッ、溶けてしまいそうだな」
可愛くて仕方ない▲▲を椅子にこのままはっ倒してしまいたい衝動をグッと堪えて立ち上がる。
「それでは行こうか、▲▲」
はい、と弱々しく立ち上がった▲▲はどんな物より輝いたプレゼントだ。