オレは、少しだけ期待をしていた。
▲▲の中でオレは他のやつより少しだけ特別なんじゃないかって、そう思っていた。無論、オレは平凡だし、敢えてオレを選ぶ必要もないのは十分にわかってる。それでも、”男として”とかではなくて、純粋に人として他のやつより少しだけ特別なんだと思っていた。
…なんてのは強がりで、本当は少しだけなんかじゃなくて、オレは▲▲にとって特別だと”思いたい”から、そうなんじゃないかって期待していた。
「…こうしてさ、他の男とも2人で出掛けたりしてんの?」
▲▲に対して独占欲が生まれたのはずいぶん昔の話だったが、この頃、妙に生まれた焦りがそれを増幅させていた。
「うん、そだね」
「襲われねえように気をつけろよ。男はみんな狼だ」
ガオと両手を広げて威嚇して見せると、▲▲は楽しそうに笑っていた。いや、笑いどころじゃないんだが。
「じゃあ純太も狼?」
「んー、オレはチワワぐらいかな」
「ねえなにそれ」
2人で出掛けてるのなんて、オレだけだと思ってたよ。なんて言えるはずもなく、ましてや狼だからいつ獲って食っちまおうか考えてるよ。なんて、もっと言えるはずもない。
「でも純太ってなんか可愛いからチワワってしっくりくるかも」
「なんだよそれー。オレだって男だぞ?可愛いなんて嬉しくねえよ」
「えー?自分がチワワって言ったんじゃん」
「そういう話じゃねえよ」
「今日の純太よくわかんない」
オレもお前がよくわかんねえよ、と言ってやりたい気持ちを必死で抑えた。
「てかこのティーソーダ超美味いよ、飲んでみる?」
「……わざとか?」
「んー?なにが?」
ストローを差し向けて頬杖をついてこちらを眺める▲▲は、ニコニコと楽しそうに笑っている。
「いや…、」
「純太さ、もしかして…私のことスキ?」
「……だったらなんだよ、」
「ふーん。そうなんだ」
どうやらとうにお見通しだったらしい▲▲は、そっかー。とこくこくと頷きながら、オレに差し向けたストローを自分に向けて咥えた。
「じゃあさ、」
後に続いた2文字の言葉は、きっと他の男にも何度も囁いたことがあるのだろう。
誘いに乗れば”出来る”が他の男との差別化はもうはかれない。誘いに乗らなければきっと、▲▲と関わることもなくなる。
「……付き合ってくれるなら、」
「私、”シ”ないと付き合わない」
「悪魔だよ、お前」
▲▲の後頭部に手を伸ばして、唇を引っ付けた。
ああ、最初からオレはぶっと大勢の男の中の1人で、これから先もそこから外れることは出来ない。