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さすがジャミル。は、私の口癖。
子供の頃からの付き合いだが彼は本当に凄いと思う。何でも出来たし、色々な事を知っている。初めてやる事でもすぐにコツを掴んで卒なくこなせる。
そんなジャミルだから御仕えしているのもあのアジーム家の長男であるカリム様で。少し前にはあのナイトレイブンカレッジの黒い馬車が迎えに来た。ほんとさすがジャミル。幼馴染の私も鼻が高いぞ。
「 ▲▲ー!ただいまー!」
「カリム様、お帰りなさいませ」
アジーム家の御屋敷は私の職場である。本日も庭先でいつものように掃除をしていると休暇でお帰りになられたカリム様が走ってくるのが見えたので、私は深々と頭を下げた。すると色んな意味で真っ直ぐな彼は何を考えたのか本当にそのまま私に"真っ直ぐ"突っ込んで来て「ぐぇ」「久々だな!元気にしてたか?」と私に思いっきり抱きつきながらそれはそれはもう眩しいくらいの満面の笑みを浮かべる。
「はい、御陰様で家族共々元気で過ごしております。ところでカリム様、毎回言っておりますがさすがにもう抱きつくのは」
「 ▲▲!毎回言うけどそのカリム様っての止めてくれよ、子供の頃からの付き合いだろ?」
そういうのもこういうのも子供の頃だからできたんだよ!と思わず口が滑りそうになったが、ふとカリム様の後ろに目をやるとジャミルが此方へ走ってきていた。おそらくこの御坊っちゃまを探しているのだろう。きょろきょろ辺りを見回していた彼と目が合い、タスケテクレーと私が視線を送ると「カリム!!!!」爆速で来てくれた。さすがジャミル。「お、ジャミル!」と暢気に手を振るカリム様の腕を掴むとべりべりと私から剥がし「お前なぁ、まずは着替えて挨拶に行けって言っただろ」「いっけねそうだった。つい窓から ▲▲の姿が見えたから、俺声かけなきゃって」「い い か ら。さっさと行くぞ」ずんずるとカリム様を引きずって歩いていく。まるで嵐だ。勘弁してくれ。「 ▲▲ー!またなー!」と手を振るカリム様に再びぺこりと頭を下げた後ゆっくり顔をあげるとジャミルがこっちを不機嫌そうに睨んでいたのがちらりと一瞬見えた。いやぁさすがジャミル、まるでカリム様の右腕だ。関心の余り、グッと親指を立てると睨んでいた顔がさらに険しくなった気がした。なんでや。
「 ▲▲」
もうかなり遅い時間だったと思う。ふと私の名前を呼ぶ声に目を開けるとジャミルがそこにいた。「ちょっと、部屋に勝手に入らないでっていつも言ってるでしょ」眠気眼で抗議する私をいつものように平然と無視すれば、「あーもう入ってこないでよ。狭いじゃん」これまた平然とベッドに潜り込んで来る。「お前、よくこんなベッドで落ちないな」「は?うっざ。天下のNRCの学生寮はそりゃ豪華な造りかもしれませんがね、こちとらしがない民なんでこれで充分です」「まぁいい。そのうちでかい所に住ませてやるから」「え、なんでジャミルと暮らす前提なの?こっわ」お前友達いないからっていつまでも私に引っ付くなよな。と言えばめっちゃ全力でヘッドロックかけられた。寧ろこれがファイトの合図でお互い枕を投げたり叩いたり引っかいたりしていれば只でさえ狭いベッド。しかも夜中。ぎゃあぎゃあ騒ぐ声。すぐさま下の部屋から「 ▲▲!!ジャミル君来てるんでしょ!!うるさいから2人ともさっさと寝なさい!!」と母の怒号が聞こえたので私もジャミルも大人しくベッドで横になるしかなかった。ほんと何年こんな事やってんだ。
「ねぇジャミル。学校どんな感じよ」寝ろと言われてもあれだけ騒げばすぐに眠れるはずもなくごろんと向かい合って寝転んだ私達はなるべく小さな声で話始める。いつものように。「どうって言われてもな、此処と変わらないさ。カリムの世話と勉強」「ご飯は相変わらず作ってるの?」「まぁな」「さすがジャミル」「あとはまぁ、部活もあるけど」「あ、今年のマジフト大会!楽しみにしてるね!録画しなきゃ」「いやまだ俺が出るとは」「何言ってるの。ジャミルは出るに決まってんじゃん」「お前なぁ、」
「ジャミルがでなきゃ、誰が出るの?」
彼が何か言いたげに口を噤むものだがら、私はどうしたどうしたと目をぱちくりさせる。するとジャミルは私の前髪を耳の方へ何度か掻き上げると、そのまま私の後頭部を抱えるように自分の方へ引き寄せて私を腕の中へ閉じ込めた。「え?寝るの?」「寝る。明日も忙しいからな」「もっと学校の話聞きたいのに。マジカメのNRCハッシュタグでめっちゃイケメン見つけたんだけど、いでででででで」「さっさと寝ろ」髪を引っ張りやがったジャミルがむかついたので仕返しに寝始めたら鼻と口を摘まんでやろう、そう思ってもぞもぞと彼の胸からどうにか顔を上げると意外にもジャミルは私をじっと見ていた。さっさと寝ろよ。
「 ▲▲、カリムをどう思う?」
急に現れた次期当主様に私は一瞬思考が止まる。そしてどう思うと聞かれればどうとも思った事がないので困るのだか、ふと頭を過ぎったのは昼間の彼の姿だった。
「え、カリム様?えー急に言われても。何だろう、ハッピーな感じだよね」
ジャミルのぽかん顔に、あぁまた自分は馬鹿丸出しな事言ってしまったなぁとは思ったけど、仕方ない。ずっと働いてるし、学がないんだもん。とはいいつつもやはり恥ずかしかったので再び私はジャミルの腕の中に潜り彼の胸に顔を引っ付けることにした。つっこまんでくれ。深くつっこまんでくれ。いいからさっさと寝ますよ。そう思ったとき「俺は?」と、ジャミルがなんだか恥ずかしいことを言いだした。
「は?ジャミル?そんなの今更聞くの?ジャミルはあれだよ、凄いやつ」
友達なのが鼻高々ですわ。と付け加えながら彼の返答を待ったがいつまで経っても何も聞こえてこない。キャッチボールしようぜ、言葉の。なんて思いながらも彼がこの後なんて返事をするだろうとぼんやり考えていたら気付けばそのまま、寝てた。仕方ないじゃん。こちとら1日働いてたんだ。
朝起きるといつものようにジャミルはいなかった。
早朝の仕事がある私もそこそこ早起きだが彼はさらに上をいく。さすがジャミルだ。着替えて階段を下り、キッチンに向かうと父と母がすでにいて「おはよー。ジャミル会った?」と聞けば二人とも会ってないという。まじ何時間睡眠だよあいつ。「あぁでも昼間ちゃんと挨拶に来てたわよ」「相変わらずしっかりした子だな」「え、なにそれ知らない」適当に果物を齧りながら卵取って来るわーと家を出ようとした時、何故か母が一緒に着いて来た。
「どうしたの?」
「貴方達もう良い年頃なんだからいつまでも子供みたいにじゃれ合わないの」
「なるほどそういう、へいへい了解」
「あとちゃんとジャミル君に結婚の事は話したの?」
「あぁ、忘れてた」
ジャミルに料理教えてもらわなきゃ〜。と笑う私に母が深い溜息を吐いた。なんでや。