▲夜に溺れる

あの女を抱いてみたいと思った。お盛んかそうでないかと問われれば間違いなくそうでない方にメーターが振り切っている自信があるが、そんな俺が初めてこんなふしだらな願望を抱いたのだ。それほどまでに彼女は妖艶で、どことなく謎めいていて、なのに何故か清純さを感じさせるのだから、つい自らの手で汚してみたくなる。
「なにボーーーッとしてんだよあかーし!」
俺を彼女に巡り合わせたのは他でもない、木兎さんだ。女の子がたくさんいる所謂そういうお店ブームの木兎さんに無理やり連れてこられた店に彼女は居た。興味もないので絶対行きませんと突っぱねていたら、お姫様抱っこして連れて行ってやるよ!と言われた時にはとてつもない殺意を覚えたものだが、自分がこんなに夢中になれる女性と巡り会えたのだから今では感謝しかない。
「ちょっと、お酒が回ってしまったみたいです」
「めずらしーじゃん」
「最近疲れていたのでそのせいかと」
自分の顔が赤らんでいることを自覚して、言い訳をツラツラと重ねた。その割には通常運転だね、と笑っているが、時折見せるその鋭さは今じゃないんだよ。

「これ、私の名刺です。よかったら」
桃色にキラキラの装飾を施した爪は彼女には少し派手すぎるような気がした。木兎さんがそろそろ帰るかと言うので名残惜しい気持ちをしまい込んで店を後にしようとしたところ、彼女が俺の後をつけていてなんだと思えば前述の通り名刺をいただいた。
「赤葦さん、ちょいちょい私のこと見てたでしょ、」
耳元でこっそり囁かれたそれは艶めかしくて刺激的である。嬉しそうに微笑んでいる彼女はとても可愛らしくて大きく脈打った。まぁ、嬉しそうと言うのはあくまで俺の主観だが。
「そうだったかな、酔ってたから覚えてない」
目を泳がせて赤らんだ顔でスカしたって丸わかりだろうに、彼女はえ〜そうなの?残念としょんぼり見せる辺りやはりプロなのだと痛感する。
「でも、▲▲さんに会いにまた来たいな」
「嬉しい!必ずですよ、また来てください」
ばいばいと手を振る彼女を背に木兎さんの後を追う。来週また来ましょうって誘ってみようかな。