▲はじまり




拙僧には縁のなさそうな洒落た建物だ。一歩間違えりゃホストクラブにでも出来るんじゃねぇのか?と思うのはこの薄暗い内装のせいだろう。
「獄、入るぞー」
高そうな重厚感のある扉を開けると、いつも通りの席にいた獄がお前…と呆れたように顔を手で押さえていた。それはきっと、拙僧と獄の間に女が立っているからだ。
「取り込み中か?」
「初めまして。こちらで本日からお世話になることになりました、●●と申します」
如何にも今どきの社会人って感じの綺麗なスーツを着こなしている彼女は姿勢も良くてとても様になっていた。ちょっと緊張したのは言うまでもない。
「あ、ああ…」
「空却さん、ですよね?先程獄さんにお伺いして」
「ああ、波羅夷空却だ。よろしくな」
手を差し伸べると控えめに手のひらが触れ合った。想像していたよりも華奢な指は、ぎゅっと握ればこのまま全て追ってしまいそうなくらいだった。
「獄にいじめられたらいつでも拙僧に言えよ」
「はい、ありがとうございます」
「▲▲、そこは乗らなくていいんだよ。初日から疲れたろ、今日はありがとな。もう帰って休め」
それでは失礼します、と彼女が部屋を去ったのを確認して、ニヤリと獄を見ればため息を吐かれた。
「初日から名前呼びかよ」
「なんだよ悪いか」
「ダメだダメだ、今の時代そんなもんすぐセクハラになっちまうんだからよー」
「でもあの子、めっちゃ綺麗だろ?」
いつもなら「そうか?拙僧には興味のねぇことだ」と終わらせる話だが、今回ばかりは認めざるを得ない。だが、女1人に綺麗だなんだとキャッキャしてる自分を想像すると萎える。
「珍しいな、耳の先赤くして。ああいう女がタイプなのか、お前」
獄に言われて初めて顔が紅潮していることを自覚する。赤ら顔であの子と喋ってたのか。
「拙僧にタイプもクソもねぇ。それより今日はお前に用があって来たんだよ」
「ふーん。ま、俺が見つけてきた子だからお前には渡さないけどな」
獄とこれから仲良くなるのかと思うと心がビリリと痺れた。

それから何かと相談という名目で天国法律事務所を訪れたのは言うまでもない。