▲期待とその先

▲▲は誰に対しても分け隔てがない。それはそう、良くも悪くも、だ。頭ではわかっている。●●と呼んでいた所を名前で呼んでよ、とお願いされた事も、不必要に身体に触れる事も、綺麗な笑顔を向けてくれる事も、それは俺だけにではない。▲▲は"そういう"女なのだ。わかってる、俺だけじゃないって、わかってる。
「まっつん私服超おしゃれー!まじカッコ良さ倍増だね」
部活が午前で終わった日、午後から▲▲と出掛ける予定を立てていた。それは俺だけでなく複数名いるものと思っていたが、どうやら俺と▲▲の2人だけらしい。いつもは部活帰りに合流したりすることが多かったので、いつも青葉のジャージ姿しか見せた事がなかったが、想定外の褒め言葉にただただたじろぐしか出来ない。
「元々スタイル良いから何着ても似合っちゃうんだろうけどね」
「そんな褒められる事ないから、恥ずかしいわ」
「そう?私はまっつんが学校で一番かっこいいと思うよ」
ほら、すぐそういうこと言う。わかってる、大丈夫、こんなこと誰にでも言ってるってちゃんと俺は理解してる。だから▲▲も俺と2人で出掛けようと思ったんだ。わかってる。
しかし、心なしか頰を仄かに桃色に染めてニッと笑う▲▲は率直に、かわいい。
「嬉しいけど、そう言う事は余り言わないように。」
「どうして?」
「俺だからいいけど。変な勘違い起こしちゃうでしょ、」
「まっつんだから言ってんのに」
「ハイハイ、そーゆーとこよ」
ぶーぶー何か言いたげな▲▲を遮って、腹減ったわ。とファーストフード店へ入る。
俺だからいいなんて、無い。俺だって立派に勘違いしかかっている。俺だからいいんじゃなく、俺だけに言っていてほしい。
「まっつんてさ、わからずやだよね」
「何よ急に」
テーブル席が空いてなかったので、カウンターテーブルに横並びで座るやいなや、▲▲は頬杖をついて上目遣いで俺を見上げている。せめて、そればわざとなのか天然のものなのかだけでも知りたい。
「それはなに?いじわるなの?」
頬杖をついたのと反対の手は俺の太ももを触れている。いじわるなの、と聞きたいのはこっちの方である。
「だから何が」
「それよそれ。スカしちゃってさ」
「スカしてないでしょ、何が言いたいの」
不満足そうな表情で俺を見つめる▲▲は黙り込む。その先をつい期待して、胸が高鳴る。
「何、▲▲ちゃんもしかして俺のこと好きなの」
冗談を言うトーンで言ったつもりだが、その様に出来ている自信はない。▲▲は俺の勇気を振り絞った全身全霊の問いにゆっくりと瞬きをする。