▲再会

【今日、誕生日だろ。おめでと。】
遂に迎えた30歳の壁によじ登った午前0時、都会に呑まれた私の携帯には久しく見ていなかった苗字が照らされている。どくん、と大きく脈を打ったのは、懐かしい名前にあの頃を思い出したからだろう。あの村に電波が届くようになったのは、私が村を出ることが決まった頃であったか。
【久しぶりすぎて泣ける!もう30なのも泣ける!】
送信を押して5分も経たぬ間に来る着信の知らせにまた脈を打つ。
「今、大丈夫か」
「うん、久しぶり」
何年振りだ?とあの頃と変わらない声で、言葉遣いで、あの頃のようにすらすらと話し始める彼は本当にあの頃のままで、言葉だけでなくて本当に泣いてしまいそうだ。
「▲▲ってまだ東京に居るんだよな」
「すっかり染まっちゃってね」
「よかったわ」
「芋が成長してよかったねって?」
「バカかお前は」
少し気に食わなさそうな返事に、鼓動が高鳴る。

私が村を出る頃に携帯が村にも普及して、そういう物に興味が無さそうな拓磨がそれを握りしめて私を訪ねてきたのは、私が村を出る前日である。
「一応、聞いといていいか」
操作方法もイマイチわからないといった様子の拓磨がもしかしたら私が遠方に出るからわざわざ携帯を契約したのかもと、それは勘違いであるかもしれないけどそれが嬉しかったのを覚えている。

その日、拓磨が言いにくそうに目を細めてい言った一言を、私はこの十数年忘れられずに生きてきたのだ。真に受けて、本当私はバカだと何度も思っていたけれど、今こうして連絡が拓磨から来ていると言う現実に期待が走る。
「さっきこっち着いた」
「え、」
「忘れたのか?」
「……、覚えてるよ」
「明日は?」
「休みとった」
そうか、と言った声はどことなく満足気で、否、満足気に感じたいのかもしれない。こんな歳になるまで学生時代の言葉を信じて碌に恋愛もして来なかった私は期待と、期待して裏切られる怖さとで右往左往している。
「とりあえず俺はどこに行きゃいいんだ」
泊まってるホテルはここだから、と送られてきた住所は私の家からそれほど遠くなく、明日の朝10時に私が迎えに行くことになった。
「お前が30歳なっても寂しい人生送ってたら、俺が貰ってやるから。嫌なら、早く男作れよ」なんて。