▲造花の喉でも息がしたい


今日もいつものように仕事を終えて事務所に戻る。
ドアを開ける前に一瞬自分の身形を気にしていると隣にいたマックスが意味深な視線を送ってきたのだが、
あえてそれに気付かないフリをして俺はドアを開けた。

「戻りましたー」
「終りましたー」

このまま社長に業務報告のはずが、「おかえりなさい。遅かったね」どうやら今は各々出払っているようでそこにいたのは▲▲ちゃんだけ。作業の最中だったのか、彼女のデスクにごちゃごちゃと散乱しているパーツに思わず目が行く。真ん中に陣取るそれは俺が少し前に預けたスペアアームで、思わず緩みそうになる顔を引き締めた。

「カートが雑魚モブにやられて時間がかかっちゃった」
「それ関係ないから。マックスがファイアウォールの二重トラップにてこずったんだろ」

肘で小突くと小突き返される。
小突き合いが徐々に加速して手足が出そうになってくると「ストップ」とマックスの肩を掴む▲▲ちゃん。すぐさまドヤ顔でこちらを見てくるマックスに反射的にその顔を叩けば「いい加減にしろ」と俺の頭が▲▲ちゃんに叩かれた。いたい。

「社長が明日詳しく聞くから今日はもうあがっていいって言ってたよ。あ、発注書は出してね」
「ラッキー!カートと飯行くけど▲▲ちゃんも行こうよ」
「私はまだやることあるから遠慮しとく。それよりやられたって言ってたけど2人とも怪我は?」

その言葉にマックスが無言で俺に視線を送る。
その視線につられて▲▲ちゃんも俺を見る。
俺は2人から視線をそらしながらゆっくりと自分の背中を指さした。

「後ろから、ちょっとだけ、一発」

そう言うや否や「もーーーー」と▲▲ちゃんは呆れた声をあげながらデスク脇にある工具箱の台車を取りに行く。「最近油断多いよ君!」身の丈ほどの台車を引きながら「ほら上着脱いで!」とぷんすか怒るその様子が可愛くて思わず見ていると、隣から微かに聞こえた録画開始音。はっとしてマックスを見ると顔面には●RECの表示に俺は中指を立てた。

「カートくんってばむっつりなんだから」
「脊髄回路焼ききれて死ね」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く脱げ!ここ座れ!マックスは?怪我してない?」

「俺強いからしないもん」という相方に再度中指を立てながら俺は椅子に座る。少しばかり気恥ずかしい俺の心象に対して▲▲ちゃんは遠慮なしにコードを繋ぐとpcでスキャンを始めた。

「大した怪我じゃないけどさぁ。この前もだったでしょ?気をつけなよ本当に」
「別に大した事ないならよくね?」

なんて返すとまた頭を叩かれる。
なんならさっきよりも強い。
「よくない」と怒った口調の▲▲ちゃんは俺のパーツを外しながら「痛いのは、君でしょうよ」とぼそりと言うもんだから思わずマックスと目が合った。

「いや、別に痛くはないけど」
「痛覚のアプデしているし」

「そういう問題じゃないんだって」と▲▲ちゃんはぼやいた。
そんな事より俺は先程から彼女の指先が当たる度にどぎまぎしているわけだが、現状前後両方にそれがバレるわけにいかないので表情を作るのに必死なわけである。まぁ多分マックスにはバレてるけれど。ていうか気付いてるんだから早く気を利かせて出て行って欲しい。そう視線を送るがわざと気付かないフリをし続けるこいつは「▲▲ちゃんってさぁ」と俺の視線から逃げる。外で待ってろ外で。

「あれだよね。多分物がぶつかった時とか自分が当たってなくても反射的に痛っ!て言うタイプでしょ」
「なにそれ」
「あぁわかるかも」
「わかんない」

がちゃがちゃと背後から聞こえていた設置音が聞こえなくなると「終わったよ」と俺に服を渡してくる。
「ありがと」と早口で呟けば「どういたしまして」と▲▲ちゃんは笑った。

「次は気をつけてよ。マックスも」
「はいはい」
「はーい」


「あんまり心配させないでね」


哀しそうなそれでいて自愛に満ちたそんな顔をどうして彼女は俺に向けてくれるのだろう。


事務所を後にして俺達は行きつけの飯屋に向かう。ダメ元で再度誘ってみたがやはり断られてしまった。
きっと俺が頼んでいたアームの改良を仕上げてくれてるのだろうと思うのでまぁそれはそれで良しとする。
アームが出来上がるタイミングくらいでまた壊してみるか、なんて考えていると隣を歩くマックスが俺に声をかけた。

「カートさぁ、▲▲ちゃんに構ってもらいたいのは分かるけどわざと初手当たりに行くのやめなよ」
「じゃあ2人きりにさせて」
「面白いだからやだ」

あの優しさや指先に触れたくて俺はまた馬鹿を繰り返してしまう。でもそれは仕方がないのだ。

全部あの子が悪い。