▲メルトダウン
生まれてこの方、元気だけが取り柄みたいな所はあった。丈夫な身体に野生の勘が追加された猿寄りの人間が、労しないお金欲しさにのらりくらりと流されるまま生きていれば気付けばアングラな世界に身を置いてしまっている現在。純粋だった幼少期はお花屋さんごっこだなんだと周りの皆が可愛らしい花輪を結っていた際に道端の草を千切って親に売りつけてきた記憶があるからもしかするとあの頃から既に片鱗は見えていたのかもしれない。なんて時々ふと思う。そんな私は勿論しっかりばっちり強化系である。
「うわ」
その日いつもよりも随分ぼんやり目が覚めた私の視界に1番に入ってきたのは見慣れた天井、よりもどーーんと近いイルミの顔だった。こちらを見下ろしているのだろうが、生気のない瞳と長く垂れ下がった髪が母国で流行ったテレビから這い出てくるあの人かと一瞬本気で思った程だ。
「寝起きでよくそんな顔できるね」
おはようも何も無く淡々とそう言うものだから私も奴の言葉を無視して「いや待ってなんでここにいるの?」と言ってやる。反射的に起き上がろうとしたのだが、どういうわけかぐわんぐわんと視界が歪んで頭も思い。なんだこれはこいつ遂に私に針刺しやがったな…!なんて思ったのも束の間、肩をトンと押され抵抗する力もなくベッドへと戻された私にイルミは「お前のそういうの見慣れないから違和感あるんだよね」と呟く。私に語りかけたというよりは独り言のようだった。
「てっきり、遂に死んだのかと思った」
伸びてきた手が私の額に触れる。
それは随分冷たくて今の私には妙に心地よかった。
「なんでよ」
「お前に付けてる監視から様子がおかしいって連絡がきてね」
「ちょっと待って色々全部知らない情報なんだけど何それ」
「様子がおかしいのはいつものことだけど、具合が悪そうなんて大げさに言うからてっきり手足のどこかは無くなってるかと思ったんだけど、起きないから医者呼んだら風邪だって。お前風邪引くんだね」
矢継ぎ早に飛んでくる情報が過多すぎる。なんだ?私って監視つけられてたの?これは体調悪いの?風邪なの?私っていつも様子おかしいの?考え出すと止まらない。とりあえず私は思考を放棄した。ただでさえ弱いお頭が熱でさらに麻痺してるのだろう。もうどうでもいいや。「私って風邪引くんだ」と自嘲気味に言えば「ね。」と相変わらずの無表情で
返される。それどころか、「お前を寝込ませるくらいだから未曾有のウイルスかもよ」と失礼に失礼を重ねてくる。
これはもう一矢報いてやらねば気が済まない。
なんて熱でテンションもおかしくなったのかもしれない私は渾身の力を振り絞り上半身を起き上がらせると奴の胸ぐらを掴み引き寄せて軽く口付けてやった。
「巻き添えにしてやる」
我ながら大胆な攻撃だ。にやりと笑ってしてやったりなんて思ったのも束の間、気付けば私はベッドに押し倒されてるし、口内を弄るぐにゅりとした感覚に目も頭もチカチカする。やっとまともに呼吸ができたと思えば目を細めたイルミがそこに居て、するりと私の服の隙間に手を伸ばしている。わばばスイッチ入っちゃった。やっちゃった。
「俺に効くか試してみようか」
どこか楽しそうな顔が再び近付いてきた瞬間、突然視界が先程と比べ物にならないくらいにぐるぐると回りだし、イルミが「え?」と珍しく間抜けな声を出したのを聞きながら私の意識は遂にぶっ飛んだのであった。そして後日しっかりと機嫌を取らされたのは言うまでもない。
でも私悪くないと思うんだ。