▲Crush on

イルミくんにとって私は彼女でもなんでもなくて、ただの同業者で時に依頼人程度の間柄である。しかし私にしてみれば上記の関係にプラスめちゃめちゃ好みの男というのが追加される。
こんな生業で、普通の恋愛なんて縁のないのだからせめて癒されたいと私は彼に対する好意を隠さず惜しみなくグイグイと押し付けていた。最初こそは露骨に嫌悪感増々だった彼が段々と塩気強めでも対応してくれるようになり、今では随分とスルースキルが洗練されている。
まぁともかく今日の私の仕事はとあるパーティー会場でとある上昇企業の若手社長の暗殺だったのだが、ターゲットは違えどたまたま現場が同じだったイルミくんを見つけてしまえばテンション爆上げなわけで。この会場に潜入するにあたっていつもよりおめかししてたのをいい事に、さくっと仕事を終わらせれば彼にスリスリと猫撫で声で体をくねらせ「このまま遊んで帰ろ?」と彼が欲しかったであろう次の依頼に必要なプラントの見取り図をチラつかせながら上目遣いで腕にしがみつく。「▲▲ってほんと仕事だけはできるよね」と呟く彼にでへへと顔が蕩けた。

そこから彼の運転で例のプラントが見下ろせる高台まで行き、細かい情報を確認し終えると「夜景見てドライブしてもうこれはデートだねえ」という私の言葉を無視して彼はすたすたと車に乗り込み帰ろうとするのだから私は慌てて助手席へ乗り込む。帰りの道中も私が一方的に話しているだけだが楽しい。イケメンの運転する車に乗ってるだけでもう楽しい。ずっと楽しい。にやにやにやと嫌でも上がる口角とテンションに呆れた様子のイルミくんがこちらをちらりと見た。きゅん。

「▲▲さぁ、もう少し静かにしなよ。今日会場でできてたじゃん。猫被ってしおらしくしていればそれなりの器量良しなんだから」
「うそ!やだ!イルミくんから可愛い結婚しよって言われた!」
「だめだ。こいつ耳より頭がおかしいんだった。救いようがないね」
「昔そういう念をかけられちゃったの。除念師もお手上げで黒髪長髪イケメンにキスして貰わないと除念できないって言われてて」
「割と誰でも良いんだ」
「ここはひとつイルミくんにお願いしたいなぁ」

わざと女を捨てた不細工な変顔でちゅーーーっと唇を尖らせながら運転席に顔を向ければ、ちらりとこちらを一瞥したイルミくんが不意打ちでそれに応えて口付けてきたものだから、私の頭はぶっ飛んだ。嘘だろおい。今何が起きたってんだ。ディープインパクトじゃないか。

「ははは間抜けな顔」

いつもより気持ち程度だけど柔らかい棒読みに追い打ちをかけて私の心臓が爆破される。恐ろしやゾルディック家。こんな殺しの手段まであったなんて。

「負けました」
「あっそ」