▲ぼくのダナエ


「今度のデートはこれを見に来たい」

そう言いながら▲▲がこちらに見せてくる携帯の画面にはまぁ聞いたことのある画家の名前と、これまたなんとなくだが見たことのあるその画家の代表的な絵画が載っていた。
彼女の方へ視線を戻せば、「期間限定なんだけどやっとこっちに巡ってくるみたいで、」と聞いてもないのにべらべらと喋り続けている。
こういう時に一生懸命色々と俺に伝えようとしているのは分かるのだが、彼女は主観の情報が多すぎて必要な事が分かりにくいので、俺はその手から携帯を奪い画面をスクロールしながら大体のポイントを確認していく。
まぁ場所もそれほど遠くない街にあるそれなりに有名な美術館で、期間もそこそこ長そうなので急いで予定を立てる必要もないだろう。
人に自分の携帯を触られているというのに全く持って危機感の無い彼女は相変わらずべらべらとその画家について何か話しているが、彼女の話している薀蓄の殆どがこの絵画展のホームページの概要に載っている事なのだから呆れるというか、愛らしいというか。
ずっとノーリアクションだと拗ねるので適当に「へー」と相槌しながら手早く彼女の携帯の中にある個人的なやり取り等を全てチェックして、特段気になるものもなかった俺は何食わぬ顔で「いいよ。行こうか」と言いながら彼女に携帯を返した。

「いいの?」
「いいよ。行きたいんでしょ」
「やった!ありがとう!」

途端に嬉しそうな顔をするものだからつい直近で自分のスケジュールに空きが無いか頭の中で考えてしまうあたり、俺もつくづく献身的な男だろう。

「でもこんなの見てどうするの?何を考えるの?」
「え?馬鹿にしてる?」
「だって▲▲は芸術品を見て可愛いですとか大きいですとかそういう感想しか出てこなさそうだから」
「馬鹿にしてる!」

途端にキーキー騒ぎ出す彼女にそういう所だよと言えば火に油だったようで▲▲はさらに騒ぎ出した。
挙句「イルミはもう少し感性を磨きなよ!他人を思いやる気持ちとかさ!」と偉そうにふんと鼻を鳴らす。
感性と共感性は違うだろうと言いかけたが言わない俺はよっぽどその思いやる気持ちとやらがあるのに彼女は気付かない。

「他人と共感し合えない奴が描いた絵を見て何を磨けって?」
「もー!イルミ嫌い!」

不貞腐れながらぶつぶつ文句を吐き携帯を扱う彼女を眺める。
別に俺は絵画だろうが彫刻だろうが微塵も興味はないけれどこの虚構に思える芸術とやらをどんな顔で▲▲が眺めるのかは興味があるから。

「俺の事嫌いなんだ。傷付いたな」
「うそうそ!好き!ずっと好き!」

だから仕方ない。
連れて行ってあげるよ。