「あかん、シュクダイ忘れた」
「あ?シュクダイ?何言うてんねん」
「最悪や!高校生っちゅうんは面倒臭いわ」
「忘れたてなんやねん」
「家でやってこい言われた紙がガッコの引き出しに眠っとんのや」
「しらんわ!明日センセェ、シュクダイ忘れましたァ言うてしばかれてこい」
「嫌やそんなんダサいわ!……しゃーない、取ってくるわ」
「は?何時やと思ってんねん」
「アブナイデェって心配してくれてんのかひよ里」
「誰がハゲの心配なんかすんねんはよ行ってこいや」
本当なら、成績も何もない俺の立場から言わすと宿題などどうでもよかった。しかしこの日、俺がわざわざ宿題をとりに行ったのは、どこのなく感覚的に"行った方が良い"と感じたからだった。それはそこで何かが起こっているのか、或いはラッキースケベ的な嬉しい出来事なのかはわからなかった。
柵を乗り越えて忍び込んだ夜の校舎はとても静かで、オバケだのなんだのというものは気にならないにせよ(なんなら俺がそっち側やし)、どことなく不安になるような雰囲気がそこにあった。
ガラ、と扉を開けると、クラスメートの▲▲ちゃんが俺の机に突っ伏して眠っていた。
「後者やんけ!」
「うわあ!」
「あっ、起こしてもうた!ごめんな▲▲ちゃん」
きっと何か嫌なことが起こっているんだろうと思っていたのだが、まさかのラッキーな出来事が起こりそうな現場で思わず声をあげてしまった。どうせなら▲▲ちゃんの寝顔少し拝んでおきたかったなぁと後悔しても時すでに遅しである。
「わっ、えっ、平子くん!?」
「焦らんと大丈夫やで、▲▲ちゃん。俺はわかっとる」
「わ、わ、ごめっ、これはっ」
「大丈夫やから!大丈夫。こんな可愛らしい子が自分の机でねんねしててんからそんなん喜ばへん男おれへんやろ」
「かわっ、か、かわっ」
「それにしても▲▲ちゃん。こんな遅い時間になんでここおんねん」
今にも泣き出しそうなほど顔を真っ赤にした▲▲ちゃんはバツが悪そうに視線を落とした。
「送ったるから、帰るで」
「……大丈夫、1人で帰れるから」
「あかんに決まってるやろアホか」
「平子くん……私今日家帰れなくて」
「は?」
えへへ、と笑う彼女の胸元からチャラチャラと金属の音が聞こえて視線を落とせば、見覚えのある鎖が繋がれていた。
「▲▲、お前…」
「平子くんにこんなに優しくしてもらえるなら、もう少し生きていたかったな」
「あっちでまた探したるわ」
「ありがとう、平子くん」
魂葬する間際、▲▲は俺に聞こえないようにしたのかとても小さな声で一言、好きと言った。