約束の30分前に送ったメッセージの既読がつかない時に何となく嫌な予感はしていた。
その不安をどうにか気の所為だと自分を言いくるめて予約したという店に向かったのだが、タイミング悪く降り出した雨に、外で待っても濡れるしなぁなんて思って先にお店に入ってしまったのも今思えば良くない判断だった。
約束の時間になっても彼は来ない。
いつもやり取りをしているメッセージアプリを開いてみてもまだ返信どころか既読すらついてない。
どうしたものか。先ほどからこちらを伺うウェイターの視線に居心地の悪さを感じつつももう少し待ってみるかと、手持ち無沙汰な私はメニューを広げた。
「お待たせ」
その声を聞いた瞬間、私のあの嫌な予感が的中する。
「あんたのことは待ってないんだけど。イルミ」
私はメニューから視線上げずにそう投げかけると、「ははは」と無機質なあの笑い声が聞こえてきた。
「俺も偶然この店に来たんだよ。そしたらお前がいて、さっきから注文もしないで1人で待ちぼうけてるみたいだから可哀想になって来てあげたんだ」
感謝していいよ。なんて調子に乗った事を言うからようやく顔をあげてじとりと奴を睨めばこちらを見つめる視線が重なる。数秒の沈黙のあと、彼は私から逃げるようにウェイターを呼んだ。
今夜デートする相手はこんな奴じゃなかった。
いつも友達からの紹介で失敗する事が多いが、彼とは行きつけの店で偶然出会い、意気投合し、先日昼間の健全なランチデートを経て今夜があったのだ。
それがどうだ。どうしてこうなった。
「何で怒ってるの?」
「怒るよ。イルミとご飯食べるために、こんなに気合い入れて仕度したわけじゃないし」
「へぇ男と会うつもりだったんだ。じゃあ尚更すっぽかされて可哀想」
「でも気合い入れすぎ。化粧濃いの似合ってないよ」なんて言うこいつに水をぶっかけなかった私はただただ偉いと思う。
いつもこうだ。
本当に嫌になる。
携帯を手に取り再びメッセージを確認するがやはり彼からの連絡はない。
ダメ元で[大丈夫?]と送ってみるが、イルミが私の前にいるということはきっと彼は大丈夫ではないだろう。顔も性格も好みだったから本当に残念だ。
私に男ができるのが許せないのか、私が幸せなのが許せないのか、ただただ私への嫌がらせなのか。このイルミという奴はいつもこういう事をする。私と関わるなと脅しているのか、私の出会いを横から割って入って踏み躙るのだ。できれば彼らには生きていて欲しいが、望みは薄いだろう。物事の対処法に殺す選択肢がある彼は厄介なことにそれが一番簡単で楽なのだから、私とは別の世界の住人だ。サイコ野郎め。
最後の望みをかけて再度メッセージを送ってみたが案の定、やはり既読はつかなかった。
「▲▲」
名前を呼ばれて顔をあげると延びてきた彼の手が私の頬に添えられ、何を思ったのか親指でぐいっと唇を擦った。そのまま勢いよく頬の所までじわりと伸びる指の感触に終わったと絶望する。
「今日落ちにくいリップつけてるのにどうしてくれんの」
「さっきよりよっぽど似合ってるよ」
人のデートどころかメイクまでめちゃめちゃにしておいて、悪びれる様子もない彼は「今度此処なんかより良い店連れて行ってあげる」なんて平然と言うのだ。あぁやだこわい人。