▲invasive alien species


別に愛国精神があったわけじゃない。ただ給料がよかった事と、自費で機械化しなくていいって理由だけで軍に入隊した。それから早数十年。運がよかったのか元々向いていたのかは定かではないが何だかんだで今は指導する立場になりそれなりの生活をしている。育てた後輩を戦場でも正門でも見送る事は多々あったが、まさかこんな形で再開するとは誰が予想できただろう。

「君、カートクレイマーだよね」

せっかくのオフ日だからとクラブで遊んだ夜中の帰り道。裏路地から聞こえてきたえらく騒がしい物騒な声に、何気なく様子を見に行ってみれば袋叩きにあっているサイボーグが1人いた。なんだなんだと近寄ってみればパーツが幾分違えど彼はどうも見たことのあるようで。記憶のデータバンクで検索をかけようかと思ったがその瞬間にこちらに気付いた目が合ってすぐに思い出した。

あぁそうだ彼だ。
前もそんな目で見られた記憶がある。

生きてるかい?と声をかけてみるが聞こえてくるのは返事とも呻きとも区別がつかない漏れる声だけ。ここで放っていてもいいけれど、少し可哀想に思えた心優しい私はどっこらしょと彼をおんぶしてその場を離れることにした。

「あそこやばい人達多いんだから気をつけないと。まったく何してたの?」

返事は無い。まぁ結構やられてたもんなぁと苦笑。自宅にある予備パーツの在庫を思い出しながら私はいっそ朝一に整備屋に連れて行くべきかなんて悩みながら夜道を歩く。ちなみに彼をリンチしていた輩数名はパルスぶっ刺して放っておいた。
まぁ、誰か見つけるだろうしいっか。



「おはよ」

目が覚めた彼は私と目が合うとぱちくりゆっくり瞬きを数回した。そして「▲▲先輩?」と驚いた様子で私の名前を呼ぶものだから今度はこちらが驚く番だ。

「私の事よく覚えてたね」
「そりゃ、まぁ・・はい」

彼が私の視線から逃げるように俯けば自分の腕に気付いたようで手をぐーぱーと握ったり指を広げ始めた。
「それとりあえず応急処置ね」と私が言うや否やバッと顔をあげてこちらを見たと思えば、さらにきょろきょろと辺りを見回すその姿はしっかり混乱しているようで、思わず笑いが込み上げてきた。

「ここ▲▲先輩の家ですか?」
「そうだよ。昨日の夜中にジャンク寸前の君を見つけたもんだからお持ち帰りしちゃった」
「きのうっすか・・・あ、昨日!」

「やばいやばいやばい社長に連絡、」と色々思い出したらしく騒いで携帯を探す彼を横目に私はコーヒーでも飲むかとキッチンへ向かった。電話をするならいない方がいいだろう。昨日あの様子からして多分彼ワケ有りだろうし。お湯を沸かす間、吸引式の何かあったっけと棚を漁っているとドタドタと廊下の向こうから聞こえてくる足音。

「先輩、」

慌てた様子でキッチンに入ってきた彼に私は手に持っていたデバイスを投げる。キャッチした彼はそれがレーションだとわかると「うわ懐かし」と声を出した。しかしその顔は眉間に皺を寄せているのでもう見たくもないのだろう。まぁそうだよね。

「家から右手に進んだらすぐに駅あるから。多分もう始発動いてるよ」

ばいばいと手を振るとまだ何か言いたげだったが「あのすんません。また改めて、」と軽く会釈する彼に「別にいいから。パーツも要らないし。そのままおかえり」と背中を押す。余程切羽詰っているのか慌てて玄関に向かう彼の携帯は先程からずっと着信が聞こえていた。何か言いたげにごにょごにょ言っている彼を「ほら急いでるんでしょさっさと帰った帰った」と半ば追い出すように外押し出す。

「あの、」
「あんまり危ない事しちゃだめだよ。元気でね」

ぱたりとドアを閉めた瞬間、キッチンからお湯が沸く音がした。さぁ朝ごはんでも食べてゆっくりしよう。
欠伸をしながらぺたぺたと廊下を歩く私はこの時まだあの後輩が再び律儀に家にやってくるなんて思いもせず、況してやそのまま居つかれることになるなんて、

考えもしなったのである。