私の生活は基本的に軍の宿舎に泊り込みだ。
立場上、別に自宅に帰ってもいいのだが1人暮らしの独り身な故そう頻繁に帰る必要もない。
それと単純に面倒くさいので結局、宿直室やデスクでそのまま寝て泊り込んでしまう事が専らだ。
家を借りているのは趣味のバイクを弄るガレージが欲しかったのとたまに人肌恋しくなる休みの前日などにはのらりくらりと誰かしらを連れ帰って寝るためである。
こんな性格だから副官には色々全てにおいてちゃんとしろとよく怒られる。怖い。ごめんて。
だから一ヶ月ぶりに自宅に帰ってきた時に玄関口で座り込んでいる彼を見つければそりゃあもう驚いた。
「何しているの?」と問う私に「やっと帰ってきた」とジト目で睨むものだから、つい「いつから居たの?」と質問を変えたのは言うまでもない。
「あの、この間は・・その、」
そのまま追い返すわけにもいかないので仕方なしにリビングに通してお互い向かい合って着座したものの開口一番、もごもごもじもじし始める彼に「もう全然いいって気にしないで」と私は笑う。しっかり直ったようで今の彼に不調は無さそうだ。
「それよりも久しぶりだね。カート君が退役してからだから会うの何年ぶりだろう」
「先輩。全然変わってないですね」
「そうでもないよ。君がいた時よりパーツ増えてるし」
私はまだ全身機械化をしていない。
ケチって右手左手・・と必要に応じてじわじわ順番に増やしていって気付けばまぁ中途半端な装いのまま落ちついてしまったわけだ。
「頭にチップは入れているから生身死んだらルンバにでもデータ移してって頼んでる」
「その絶妙に笑えないジョーク相変わらずっすね」
君は相変わらずドライだねぇと笑うと顔を反らされた。悲しい。
「あとちょっと聞いていいすか」
「なに?」
「あんた今凄いだらしない生活してますよね」
先程、玄関先で向けられたあのジト目が再び私を見るものだから一瞬どきりとする。だらしないと言われて脳裏を駆け巡るのはどれだ?どれについて言っているんだ?という焦りである。
どうかこの掃除が行き届いてない部屋くらいの叱咤であってくれとすっとぼけた顔で「えー?」と返すと、彼の睨みが更に強くなった。
「俺かなり頻繁に先輩の帰り待ってたんですけど、」
「え、ごめん」
「その間に3人くらい同じ様な奴らと会いました。男1と女2。しかももれなくメンヘラ」
「男女関係なしに見境無く食ってるでしょ」じーーーーとこちらを見る視線にうわあぁあと叫んで逃げてしまいたかった。バレたくなかった、特に辞めても一応彼は後輩なわけだからこんな先輩だと知られたくなかった。恥ずかしさでチップがオーバーヒートしそうだが何か言い訳せねばと、私は。
「公私混合をしないように職場関係に手は出していないよ!」
なんて的外れな返答をしてしまう。
もちろん彼の視線は私を蔑んだままだ。
「あとこの家のセキュリティがばがばすぎてウイルス入れられてました。俺が会った奴の中にその犯人がいるかは分からないですけど、普通に盗聴器もついてましたよ」
「え、こわ」
「知り合いにそういうの強い奴いるんで逆にハッキング返ししてます。だから多分もう大丈夫です」
「え、ありがとう」
何故かびくりと固まるカート君に「でもほとんど帰らないから盗聴してても面白くなかっただろうね」と笑えばそこそこ本気で怒られた。
「先輩昔から危機感が無いんですよ」
「よく言われる」
「実戦でも演習でも食堂でもへらへらへらへら」
「初期装備からネジ外れてんのよ多分」
「俺が言えた立場じゃないけど俺の事だって見つけたからって家に連れて帰ります?もしやばい奴だったら、」
「それはカート君だから連れて帰ったんだよ」
後輩贔屓〜と頭をぐしゃぐしゃ撫でれば、少しの間の後に何を考えたのは彼は「あ"ーーー」と唸ってそのまま倒れた。どうしたどうしたと焦る私を床から見上げながら「もうやだこの人」と呟かれこちらは非常にショックである。
「せっかく忘れたかったのに」
「ごめん何を?」
何か不快にさせたかとあわあわしていると「せんぱい」と彼がなんだか随分可愛らしい声色で私を呼ぶ。
それがちょっと色っぽくてドキリとしながら「どうした?」と返せば「泊めてください」と切ない声。
まぁ久々の再会の場面があれだったんだ。ワケ有りそうだとは思ったが帰る場所もないのだろう。
しかも我が家のセキュリティまでアップグレートしてくれたわけだし私もその御礼くらいするべきだ。
なんて考え快くさらっと「いいよ」と返せばカッと目が見開かれる。
「ほーーーらーーーーそういうとこな」
「え、なんで怒るの?」
わかんない。ごめんて。