⇧のそれから。

「カート最近めっちゃ働くよね」

現場に向かう車中でハンドルを握るマックスが急にそんな事を言い出した。空いた片手で頬杖をつきながら軽快な声色だが、俺を見るその視線はどこか訝しげだ。何の探りだろうか、黙っている俺に「あの先輩?」と再度追撃で聞いてくるので簡単に「そー」とだけ答える。信号が赤になり停止したタイミングで車の時計を見るともう昼過ぎ。今日は先輩が夜に帰ってくる日だから俺もさっさと仕事を終わらせてあの家に向かいたい。

もうずっと昔の頃だが入隊した当初はあの人の事が苦手だった。何かにつけて絡んでくるし、男社会にいるのに隙だらけで。そういう方法で出世しようとしているのだろうと思っていた。
しかし何度か実戦に出て分かったのだがあの人は頭がおかしい人なのだ。
危機感が欠落してるからこそ大胆な行動もできるし、判断も鈍らず素早く頭を働かせられる。そういう所から実績だけでじわじわと登り詰める彼女はやはり誰から見ても惹かれる存在だっただろう。
でも俺が抱いている感情はあまりにも淀んでいる自覚があったからこそ蓋をした。厳重に。

そのはずだったのに。

「なぁこの間やってくれた追跡アプリあるじゃん?あれ一定のエリアだと感知しないんだけどどうかなんねぇの?」
「あー多分それ軍の防衛域の中だからだよ。さすがに無理」
「先輩のとこの副官が邪魔なんだよなぁ。どうかなんねぇかな?」
「一般人の元カレカノ消すのとワケが違うんだから簡単に言わないで?」

正直先輩のだらしなさを知ったときは嫉妬で狂いそうだったが、まぁ直接やってくる奴も調べて出てくる奴ももれなく見事にメンヘラばかりで自分も人の事を言えないのを自覚している分、あの人の製造機っぷりにいっそ笑った。笑って笑って笑って、真顔になった頃には頭もしっかり冴えていた。
戦略が立てやすくなったと考えればいい。
とにかくあの人を俺じゃなきゃだめにしてしまえばいいのだ。関係性とか立場とか、あの人相手じゃ固執した所で俺が思っているほど意味がないだろう。ならこの際名前のついた関係なんてどうでもいい。

俺があの人の中で唯一の所に立てられたらそれでいい。

「そういえば来週でかい案件あるって社長が言ってたけどマックスもやる?」
「えーやるー。ていうかその先輩って高官でしょ?買いたい物あるなら出して貰いなよ」
「いや俺が買いたいんだよ。んでびっくりさせたい」

やだなにお前キモイー。と騒ぐ姿を横目に俺はショッピングアプリのお気に入りページの見せた。
まっピンクな画面のそれを見たマックスは一瞬固まった後、すっと前に向き直り信号が青に替わったのを確認するとふんわりアクセルを踏むのだった。

「それ、▲▲ちゃん死んじゃうよ?」
「▲▲ちゃんって呼ぶな」