「▲▲チャァン」
ちょっとこっち、と手招きされた先は部室だ。
早朝、誰よりも早く来て準備を始めていたのが”コイツ”に知られたのは数ヶ月前のことだった。たまたま早く目が覚めただとかなんだとかで私の数分後にやって来た荒北は、私を見るなり嬉しそうに目を細めた。
「▲▲チャァン、ちょっと”ナグサメテ”くんねェ?」
「彼女にでもフラれたの?」
「ンなモンいねェしいらねェ」
部室内のベンチに腰をかけた荒北は、イヤな笑顔を浮かべていた。
「いらねェんだけどォ、コッチは欲しがってんだよなァ」
荒北の視線の先には、服の上からでも分かる膨張した荒北のそれがあった。
「なんで私が…自分でやればいいでしょ」
「オォイ、ひでェな▲▲チャァン」
部室を出ようとすれば、いつの間にか追いついていた荒北の手がドアを押さえていた。
「もしかしてさァ、▲▲チャンって」
耳元で呟かれた“ショジョ?”と言う言葉に思わず顔に熱が籠る。
「ご名答って感じ?」
「ううううるさいな!なんでもいいでしょ」
「ふーん、意外だナ。カワイイ顔してんのに」
「なっ!」
「顔赤くしちゃって、反応もカワイイじゃん」
「いい加減にしてよ!」
「そんな赤い顔で怒られてもなァ」
ニタニタと笑う荒北は私の手を引きベンチへ座る。この時、いそいそとついて行ってしまった自分が情けない。
「流石にハジメては可哀想だから口でいいからサ」
「なんで、私が」
「マネージャーとして、俺の”タイチョウ”もマネージメントしてヨ」
頭を優しく荒北の手がなぞる。少し腰を浮かせたと思えば現れた荒北のソレを、私は遂に口に含んでしまった。チョロい女と思われただろう。最悪だ。
「あぁ…上手じゃナァイ。皆にしてんじゃねェの」
したことないよ、こんなこと。と目線だけを上げて荒北を見やると、驚いたような表情を浮かべてやべ、と呟いたかと思えば熱い液体が私の口内を充した。ティッシュを掴んで吐き出せば、少し不満げにその様子を眺めていた。
「ありがと、気持ち良かったわ」
「嬉しくない」
「また頼むなナ」
「もう頼まないで」
部室を出ようとした荒北はふと思い出したようにこちらへ振り返ると、いつになく真剣な眼差しを私に向けていた。
「他のやつにこんなことすんじゃねェぞ」
「しないよ」
「ッハ、どうだか」
ひらひらと手を振る荒北は部室を後にする。
誰にでもするわけなんかない。選択肢を間違えたってことぐらい、わかってる。3年間、密かに思いを寄せていた相手とこんな結末になるなんて、本当に最低最悪だ。
それからと言うもの、気が向いた時に荒北は朝早くに現れては私を部室に呼びつける。それももう、ひとつの日常のようになっていた。
「▲▲チャンってもしかして俺のコト、スキ?」
今日も今日とて口をティッシュで拭っていると、パンツを履きながら荒北は飄々ととんでもないことを口走っていた。
「…なんで」
「昨日新開にそんな感じのコト言われたから」
「ふーん」
「…で?スキなの?俺のコト」
「……だったら何」
「じゃあサ、する?エッチ」
「は?」
「俺のコトスキなんだろ?貰ってやるよ、お前のハジメて」
「荒北って、本当にサイテー」
「褒めてくれてる?」
今日部活終わりに俺の部屋来いよ、なんて言う荒北に、なんでこんな人を好きになってしまったのだろうとつくづく思う。
そして私は今日、きっと。