まだ外も薄暗い明け方。
人工的な光でぼんやり目を覚ませば隣で寝ていた▲▲が上半身を起こし携帯を扱っていた。俺の視線に気付いたようで「おはよ。ごめん、起こしたね」と声をかけてくるがその視線は此方を向いていない。別にいつもの事だ。多忙な彼女は仕事中も食事中も況してや久々の逢瀬後のピロートーク中でさえ常に携帯が鳴ればすぐさまそれが優先になる。
▲▲が優秀なのは出会った頃から知っていた。ただの民間会社のボディーガードだった彼女の名前は次第に知れ渡り、着実にキャリアを積んだ今ではパドキア共和国の政府要人警護を勤めている。元より忙しいのはお互い様だが年々会える頻度も時間も短くなっていると感じてしまうのは気の所為ではないだろう。
「仕事?」
「そー。情報共有」
「この時間に?」
「時間は関係ないの知ってるでしょう?」
「ねぇ▲▲」
「なぁに?」
「傭兵とかじゃだめだったの?」
眉間にシワを寄せ気難しそうな顔でメールをチェックする彼女に俺は問いかける。手早く動く指先がピタリと止まり、画面からゆっくり視線を俺に移した彼女はどこか困ったようか笑みを浮かべて「戦場に出たいわけじゃないからねえ」とだけ一言。分かっていた返答だけどやっぱりなんだか面白くなくて俺は彼女の腰に手を回して更に額を押し付けた。
そんな俺をまるであやすように彼女の片手が俺の頭を撫でる。
「例えば暗殺者が俺だったらどうする?」
ぼそりと呟いた問いに彼女は「えー」と困惑した声。
「それは私の警護中の話?」
「そう。▲▲が守ってる奴を俺が殺しに行く場合」
▲▲が再び此方を見たのが分かったが敢えてその視線から逃げるように目を逸らす。一瞬見えた彼女のなんとも言えない顔が尚の事、腹が立つ。
あぁ、何を期待しているのか。
我ながら、らしくない。
「状況次第だけどイルミ相手だと捕まえるのは難しそうだから、元首の命を優先で殺す方に全フリした方が幾分か勝算ありそう。でもまず第一にそんな依頼があったらイルミは私に言うだろうし、私はボスに掛け合ってゾルディック家にその倍の額を提示して事を収めるかな」
「…まぁありえなくはないかもね」
「でもそもそもその状況はよっぽどでない限りないだろうし安心してるよ」
「なんで?そこまで言い切れるの?」
「だって国のトップに手を出すなんて馬鹿な事を貴方の一族がするわけないわ」
「随分甘くみてるんだね。」
「違うわよ。均等が崩れるって意味。
ゾルディック家が本気で国家転覆でも考え出したらそれこそ一瞬よ」
俺の頭を撫でていた手がそっと離れたと思えば、腰を抱く俺の手をゆっくりと添わせ、妙に滑らかに絡ませて、解く。
名残惜しくそれを見ていると彼女はそのまま俺の腕を引き、手の甲にそっと口付けると「もしその時がきたら、」続けた。
「その時も早めに教えて。すぐにSPを辞めて執事に転職するわ」
「その時は▲▲をロイヤルファミリーの一員にしてあげるよ」
それもいいかもね。なんて笑いながらベッドから出ていく彼女を眺めていると、そんな未来に早くしてしまいたいなんて、少し想像してしまった俺はシーツに残った彼女の熱が引いていくのを感じながら苦笑するのだった。