▲身を沈めてしまいたい

このまま朝が来なければいいと思った。
毎日、生きることが精一杯だった。もうどうしようもなく疲れ果ててしまった。
「おい▲▲、なにしとんねん」
誰もいないのを見計らって、夜の海に身を投げてしまおうと思っていた。ここへ来る時にも、着いた時にも辺りを見渡して誰もいないことを確認していたというのに、私の1メートルほど後ろには平子隊長が立っているのだから、つくづく敵わないと思い知らされる。
「ちょっと散歩に…」
「こんな時間にかいな」
「…夜の方が綺麗かなって」
「やめた方がええんちゃう。風邪ひくで」
「はい、そうですね。もう少ししたら戻りますから」
「ほな俺ももう少しだけここ居ろかな」
余計なことを、と思ったのも事実だが、何故か嬉しさをも感じていた。
「お気持ちだけ」
「お気持ちだけちゃうわ。なんかお前怪しいねんもん。帰れるかいな」
平子隊長はしっとりと目を細めると、いー、と真っ白の歯を見せて笑う。
「お前、自覚あるんか知らんけどやばい顔してんで」
「失礼な」
「失礼でも働きゃお前が思いとどまるなら俺はなんぼでも言うわ」
「何を言ってるんですか」
「お前この期に及んでバレてへん思てんの?」
よっこいしょ、とまるでオジサンの様な声を上げながら、砂がつくのも厭わず胡座をかいた。
「俺、こう見えても人のことよう見てんねん」
「ヒマなんですね」
「お前余裕あるやないか」
腕を思い切り引かれたと思えば、よろめいて私は気づけば平子隊長の脚の上に倒れ込んでいた。
「危ない」
「もっと危ないことする気やったんちゃうの」
細身の隊長からは意外なほど逞しい腕が私の肩を覆い、手のひらは優しく頭を撫でている。そんなことをされたら……
「おうおう泣け泣け。俺はいつでも受け止めたるから」
「平子、隊長」 
「どんなことがあってもなんとかしたるし、どんなことでもお前の味方になったるから」
「…、」
「頼むから変なこと考えんといてくれ」
明日が来ることをやめたかった。人生を卒業したかった。その思いは今も変わらず心に蜷局を巻いているというのに、気持ちとは裏腹に私はわかりました。とつい返事をしていた。
「平子隊長、ご心配おかけして申し訳ありません」
「そんなん要らんわ」
「…もう少しだけ、頑張ってみます」
「頑張らんでええわ。生きとってくれたら」

その時私は気付いた。
私は誰かに助けて欲しかったのだと。