▲おとうとのあね

※きもちわるいはなし



そんな目で見ないで。

いつの頃からか姉さんは俺に向かってよくそう言うようになった。
持に何かを意識しているつもりはない。それなのにあまりによく言われるものだから、前に一度「俺ってどんな目しているの?」と聞いた時の姉さんのしかめっ面は未だに記憶に強く焼きついている。

家族の贔屓目無しに姉さんはよく出来た女だと思う。
母さん似の顔立ちと髪色だがふわりと靡く髪質は父さんの遺伝だろう。
容姿だけでなく能力センス教養、長女なのもあって英才教育を叩き込まれた姉さんは家族愛の強い我が家の中でもキルとは違った意味で愛されているのは見ていて分かる。 実際俺達弟側からも彼女の面倒見の良さはつい甘えてしまうくらいの心地よさがあった。

姉さんはゾルディック家に必要な存在だ。
暗殺者としても、女としても充分すぎる器量がある。

それなのに何故、こうもろくでもない男にばかり引っかかるのだろうか。



「姉さん。また別れたんだって?」

部屋に入れば案の定ベッドに倒れるように身を埋め、シーツだなんだ全てを涙でぐしゃぐしゃにしている彼女の姿があった。ひっくひっくとしゃくりをあげながらも俺に気付いた姉さんは顔を隠すように毛布の中へと丸まっていく。

「ノックくらいしてよ」

ぼそりと聞こえた声に「したよ」と平然と嘘で返しながら俺は姉さんに近付くとベッドへと腰をかけた。 そんな俺から逃げるように姉さんは更に毛布の中へと潜っていく。 少しだけ出ている俺と同じ色の髪に触れてみれば、すぐさまそれも毛布の中へ引っ込んていった。

「姉さんもうすぐ夕飯の時間だよ」
「要らない」
「そろそろ食べないと。母さん達も心配してたよ」

毛布の隙間に手を忍び込ませて一緒に中に入ろうとすれば「出て行って!」と金切り声と同時に飛んでくる足。昔はよく一緒に寝たりしてたのに。少し寂しさを覚えながら暴れる毛布の塊を馬乗りになって押さえつける。 いくら姉弟でも男女の差。俺に力で勝てない姉さんは最初は騒いでいたものの段々と静かになり大人しくなった。 そしてちらりと見えた泣き腫らした目が俺を見つめながら細い声でまたあの言葉を言うのだ。

「そんな目で見ないで、お願いイルミ」

姉さん、俺の 、姉さん。
真っ赤になった瞳が、腫れた瞼が、少しでも早くもとに戻るように俺は彼女の熱を持った額に口付ける。
びくりと震えた体に大丈夫だと伝えたくて毛布ごと抱き締めた。

キルが産まれたばかりの頃。
仕事から1人で帰る途中の俺を突然迎えに来た姉さんが他愛もない話の後で「イルミは皆のお兄ちゃんだけど、私にとっては可愛い弟なんだからね」と頭を撫でてくれた。

思えば、あの後くらいからだっけ。

「俺はね、姉さんに幸せになって欲しいだけなんだよ」

それに値する男だったなら別に殺したりしないのにね。