▲一途など持ち合わせていない

夫の訃報は平子隊長から聞いた。
それを聞いてすぐはそんな現実を受け入れられるはずもなく、隊長は酷な仕事をしているな、とどこか他人事で隊長の心労に同情さえしていた。
隊葬を行い、慌ただしい毎日から日常が戻ってきた頃、待てど暮らせど夫が帰ってこないという現実が降ってきた。そんな頃だ。隊長は私のそんな状況をきっと察して、私の仕事が終わる時間に合わせて隊舎へ顔を出しては付き纏うように強制的に家まで送ってくれ始めたのは。その頃の私は、何かを食べようとすると喉が締まり、無理やりに食べれば吐き戻してしまう日々が続いていた。不健康に痩せこけた私を見ていられなかったようで、毎日晩御飯をご馳走してくれるようになった。
「▲▲、飯食うてるか」
「はい。おかげさまで、少しずつですが」
「元々痩せてんねんからしっかり食べなあかんで」
大分食べられるようになったと言うのに、今日も寄ってこか、とうどん屋を指差す隊長は私の返答待つこともなく暖簾をくぐる。
「隊長、いつもすみません」
「▲▲に謝られたら俺はどないしたらええねん」
「明日からは、もう自分で拵えますから」
「あかん。そないなことしたらお前食わへんやろ」
「食べます。不思議なもので、お腹は空くんです」
「それでもあかん」
いつもどおりうどんを2杯注文したら隊長は、自分の分と私の分の水をコップへ注ぐ。
「もう1年近く経ちますから」
「まだ1年しか経ってへんやろ。それに、月日の長さの話ちゃうねん」
「でもずっとお世話になる訳にもいきませんから」
「なんでや?」
「な、なんでやって…」
「俺はお前の一生面倒見たる気でおんねん。せやないとあいつに怒られるわ」
「怒りませんよ、そんなことで」
「アホやなぁお前は。……”そんなこと”ちゃうねん」
ずず、と鼻水を吸った隊長の目元は少し涙ぐんでいる。
「隊長、」
注文していたうどんが2杯おまち、と机に差し出されると、隊長はまるで感情を隠すように食おか、と割り箸を差し出す。

2人でうどんを啜っている間はずっと沈黙が続いていた。いつもは嫌な記憶を思い返さないように、どちらからともなくどうでもいい話をべらべらと喋っているのに。
「▲▲」
店を出てすぐ、隊長は私の腕を掴んでいた。その力はその華奢な体が嘘のように力強くて、痛みさえあった。
「俺ん家来たらええわ」
「何を言ってるんですか」
「面倒見たるし」
「お気持ちだけで…」
「▲▲が帰って1人なんは俺のせいやろ」
「隊長のせいじゃありません!」
「俺が行ったら良かったんや。俺が行ったらあいつは死なんかったし、▲▲も1人にならんかった」
「隊長!」
「ずっと思うててん。でももういくら考えてもあいつ帰ってこぉへんねん」
「…、」
「お前を1人にしたないねん」
「そんな事で一生を無駄にしないでください」
「無駄なんかちゃう。俺が、お前のそばにおりたいだけや。あかんか?」
隊長の眼差しはいつになく真剣で、本当に私のことを心配してくれているのだと実感する。1人にこんな罪意識を感じていてはいけない。こんな事はきっともっと増えていくのだから。
「隊長、今日はゆっくり帰りましょう」
「▲▲、」
「そんな義務感で、一生のことを決めたらいけません」
「……それもそやな。この話は日を改めよ」
「私の言ってる意味わかってます?」
「ん?あー、おん」
「テキトーな返事…」
いつものように笑い合う。
どうでもいいような話をしながら家路を歩く。私はこの時間が、そんな隊長がーーー