▲ヘビーベビースキーマ
「イルミさん!イルミさん!」
俺を見かけるといつも走ってやってくるこいつは仕事の関係上切れない情報屋だ。この緩そうな顔と頭のくせに仕事の収集能力は高いから使っているが、いつ見てもとてもこいつが仕入れているとは思えない機密情報を平気で売ってくるのだから人の才能は見かけによらないのだろう。
「これは頼まれていた資料で、こっちは前回の領収書で、これはこの間旅行に出ていたのでそのお土産で、あ!これは個人的に渡したかったやつで、」
今にも底が破れそうな、どう見ても積載量をオーバーしている紙袋からごそごそと1つ1つ説明を始める▲▲に俺は顔を顰める。資料と領収書だけなら荷物にならなかったのに。いっそ車まで運ばせるかと考えながら、べらべらとよく回る舌から聞こえた言葉を右から左に受け流していた最中、不意に聞き取れたその単語にふと思考が引き留められた。
「旅行?」
「はい!」
「誰と?」
「1人です!」
「どこに?」
「ジャポンです!」
「なんで?」
「なんで???」
「強いて言えば、学術的興味…?歴史が面白いんですよ」と笑う▲▲に一瞬でも男の存在を疑った自分が嫌になった。それと同時に今度は危機感の無さにも腹が立ち始める。こんな戦闘スキルもない女が独りで辺境の地へふらふらと行くなんて。死にたいのだろうか。
「まぁいいや」
「楽しかったですよ!イルミさんも今度行きますか?」
「一緒に?」
「はい!」
「…いいよ」
本当に、危機感が、ない。
何を考えてこんな事を言うのだろう。
男と2人で旅行に行くのはこいつにとってそんなに大したことじゃないのか、それとも俺だからなのか。俺だからとしてそれはどういう意味なのだろうか。俺が男として見られてないのか、男として見てるからこその発言なのか。
わーいと跳ねるこいつの頭に時折俺は無性に針を刺したくなる。
いっそのこと人形にした方が楽なのだろうが、それは旅行から帰ってきてから考えても遅くないはずだ。
まだ、しないであげる。
ってだけ。
「いつにする?」
「思ったより乗り気だ!」
それだけ。