▲ハッピーバースデー2026

「…あれ?珍しいな。みょうじがこんな時間までいるなんて」
部活を終えてさあ帰ろうかと部室を出た手嶋は、目を大きく開いて瞬きをした。
「うん、待ってた」
「えーなんだよみょうじ彼氏いたのかよ。ショックだわ、普通に」
「……えっと…、手嶋を、待ってた」
そよぐ風が私と手嶋の間をひゅうと通り抜けていく。風に靡いた髪が顔にかかり、うざったそうに左手で左側の頬から後頭部までを梳いた手嶋はその辺の女よりよっぽど美人だと思う。
「こんな時間まで?」
「うん。…言いたいことがあってさ」
「"帰宅部"なのにこんなに帰るの遅くなっちまったら、部活クビになっちゃうんじゃねえの」
「…ねえ、バカにしてる?」
「んー……可愛がってる」
「なにそれ」
ケタケタと笑いながら歩みを進めた手嶋に続く。
「…それで?言いたかったことってなんだ?」
うん、と返事をして手嶋の制服の裾を掴むと、どうした?と振り返る。
「あの…、お誕生日おめでとう」
「……なんだよ、それ言うために部活サボってまで待っててくれたのか?」
「うん。…でも今日さ、手嶋が部活頑張ってるとこずっと見ててさ、改めて思ったんだけど」
「ずっと見てたのかよ、今日」
「うん、見てたよ。手嶋さ、めちゃめちゃかっこよかったわ」
一瞬目を大きく開いて驚いた表情を浮かべると、それを隠すように前を向き直した手嶋は、さっきまでより少し早い速度で歩き出す。駆け足で追いついて手嶋の顔を覗き込めば、照れくさそうに反対の地面に視線をやって耳を赤らめていた。
「冷やかすなよ」
「冷やかしてなんかないよ。本当のことだもん」
「しかも改めて思ったって、なんだよ。いつも思ってるみたいだろ」
「いつも思ってるよ。…じゃなきゃ"部活"サボってまで待ったりしないでしょ」
「……じゃあ、誕生日がてら一個いいか?」
「なに」
「オレのインハイが終わるまで、彼氏作らないで欲しいんですけど」
「…うん、わかった」
「……あー、楽しみ増えたわ。明日からまた頑張れる」
「なにそれ」
「なまえ、…ありがとな」
「ああっ、これ、誕生日プレゼント!…自信ないから帰って開けて」
「嬉しすぎるわ。まじありがと」
お礼に送るわ、と私の家の方向へ進み出す。
いままでより少し近くなった手嶋に、私は恋をしている。


main * JACKALOPE