6-3


素晴らしく豪華な食事に、不覚にも機嫌は上向いた。同じギルドの仲間でありながら、とんでもない秘密を持たれていたことは腹立たしいが、この食事も、宿も、すべて彼が自分を思って用意してくれたものだ。いつまでも不貞腐れて旅を台無しにしたくない、と気を取り直して、食事を楽しむ。デュランダルはイルーチェとは真逆で、食に対する執着がまったくない。生きるために必要でなければ、おそらく一切食事を取らないだろう。代わりに酒はだいぶ飲む。ジュディスが食事をしている間に彼は軽く六本ワインを空けていて、まるで酔った様子はなかった。

「イルーチェとおじさまは、どちらがお酒は強いのかしら。」
「ルーチェじゃないかな。あの子にとって、酒は水のようなものだから。」
「おじさまでも敵わない?」
「さすがに対抗したら死ぬかもしれないな。」
「ふふ、やっぱりおじさまが唯一敵わない相手ね。ねえ、おじさまは酔うとどうなるの?」
「俺は寝るらしい。酔いが回った瞬間にバタッと。」
「迷惑をかけなくて良かったじゃない?」
「いやあ、ダミュロンには散々文句を言われたよ。あんたみたいなデカイ奴抱えられるかってね。」

若かりし頃のレイヴンが必死になって運ぼうとしている姿がありありと浮かんで、くすくすと笑う。文句を言ったとしても、レイヴンは世話焼きだし、責任感があって優しい。けして放置などしないだろう。

「レイヴンは優しい人だものね。」
「そうだね。あいつは昔から、優しすぎるくらいだから。」
「おじさまはレイヴンが好きよね。」
「可愛いからね。俺の何がいいのか、なぜか懐いてきて。」
「・・・私はレイヴンの気持ちがわかるわ。」

レイヴンだけではなく、ギルドの皆がデュランダルを慕う理由は、彼があまりに圧倒的だからだ。カリスマ性に満ち、この人となら何があっても大丈夫だと思える。外見だけでなく中身までスマートで格好いいし、何より彼の合理性と冷酷さがなおさら人を惹き付ける。己が、否、人が持てないものを持つから、誰もが憧れる。

「御馳走様、とても美味しかったわ。」
「じゃあ戻ろうか。」
「お会計は?」
「終わってるよ。おいで。」

いつの間に・・・、と思いながら立ち上がり、併設されているレストランを出ると、「払うわ。」と言う。だがデュランダルは「この俺が女に払わせるとでも?」とにっこり笑う。これは何を言っても無駄ね、と理解し、「・・・じゃあ、ご馳走になるわね。」と財布をしまった。

「うちの男の人達は、女性にお金を使うのが好きね。」
「いい女に貢ぐのは無駄遣いではないからね。美味しそうに食べていて可愛かったし。」
「私に可愛いなんて言うのはおじさまくらいよ?」
「ああ、綺麗で可愛いよ。すまない、足りなかったね。」

より褒めろという意味で言ったわけではなかったのだが、デュランダルは優しく頬を叩きながらにっこりと笑う。そうじゃないわ・・・と思いながらも、僅かに熱くなった頬に触れた。
部屋に入ると、上着を脱いだデュランダルは「さて、」と声を出す。食事前の話の続きかしらと彼を見ると、にっこり笑ったデュランダルはジュディスをひょいと横抱きにした。

「・・・!?」
「お風呂に入ろうか。」
「お、おじさま・・・!?」

ご機嫌でバスルームに入ったデュランダルは、脱衣場に下ろすと背後に回る。するすると楽な格好にした彼は、胸元を覆う布の止め金を外した。

「ま、って・・・!話の続きはどうしたの・・・!?」
「するよ。お風呂でね。ほら、いい子だから手を避けて。」
「あ・・・!」

あっさりと剥ぎ取られ、ほぼ裸の状態になる。解放感に弾んだそれに長い指が触れた。

「・・・どのくらいで、ここだけでイケるようになるかな。」
「・・・っ、ぁ・・・」

背後から両胸の先端を優しく撫でられる。下腹部に痺れが走り、ぞくぞくと身震いしたジュディスに、彼は微かに笑った。

「・・・話している間にイケるようになるといいが。」
「・・・まさか、ずっと弄ってるつもりじゃ・・・。」

彼の話がどれだけ続くか分からない。その間ずっと・・・?と僅かに顔を向けると、きゅ、と摘ままれた。

「・・・これ以上のおあずけは聞かないよ?」
「だ、だって・・・おじさまが、急ぐ・・・って・・・、っ」
「ふふ、可愛い。」

あっという間に固くなってしまった先端を、頭を撫でるように優しく撫でる。腰が揺れて尻が彼の腰を擦ったが、おあずけは聞かないと言ったわりに彼はまったく反応していなくて、ジュディスは自分ばかり・・・と羞恥心に頬を熱くした。
これでは下を脱ぐ余裕もないと震えていると、パッと手が離される。すっかりその気になっていたのに、なぜと振り返ると、彼は「お前も脱いでおいで。」と服を脱ぎ始めた。

「・・・意地悪・・・っ」
「可愛い子には意地悪したくなるものだよ。」
「・・・おじさまって本当に隠さないのね。」
「ああ・・・、隠したほうがいいのかな?あまり必要性を感じないが。」
「それは・・・、・・・それだけ大きければ・・・そうでしょうけど・・・。」

ちらりと目をやった先に見えた男根はやはり萎えているが、相変わらず規格外の大きさだ。いつ見ても凄い・・・、と見ていられなくなって目を逸らすと、デュランダルは「まあ確かに俺は大きいね。」と襟足を結んでいた紐を解いた。

「服を着るなんて文化があるからいけないんだな。でも脱がす楽しみがなくなるのは惜しい。」
「・・・おじさまって、知れば知るほど肉食系よね・・・。」
「男に生まれた以上、女は抱くか抱かないかのどちらかだろう?」
「聞いたことないわ、そんな極論。」
「待って、やっぱり脱がせたいな。」

脱いでおいでと言ったが、よくよく考えたら脱がせたくなったらしく、振り返ろうとする。「ダメ。」と背中を押してバスルームに押し込むと、彼は「・・・つまらない。」と眉尻を下げたが、ジュディスは扉を閉めながら「・・・いい子で待っていて。」と言って扉を閉めた。

どく、どく、心臓が煩い。ああ、何とか誤魔化せていたかしらと胸を押さえる。本当にあの人は四十代後半か疑わしい。本当は同い年くらいなのではないだろうか。それくらい、完璧に整った身体だった。
無駄な肉など欠片もなく、手足は長い。広い肩や引き締まった腰など神がかった曲線美だ。
裸体になってあれこれ話したりなんて、どんな愉快な催しだと他の男なら言いたくなるが、彼ならずっと見ていられる。
結果世界を救ったあの旅の中で、話に聞いていただけの人だったのに、今やその人に恋をして、身体を重ねて、一緒に旅をしている。
この旅の中でも、次々新しい顔を見せてきて、目が離せない。

(・・・意外とお茶目で、たまに子どもみたい。)
(かと思えば、手が届かないほど大人で、翻弄してくる。)

デュランダルは両極端な面を併せ持つ。くるくると変わっていく様は、やはりイルーチェとよく似ていた。イルーチェも、歳上だから頼りになるし世話焼きだが、かと思えば無邪気で子どものように振る舞ったりする。質の悪さは親譲りということだろう。
扉の向こうに行けば、いったい何をされるのか。期待に鳴り止まない心臓を押さえながら、ゆっくりと扉を開け、真っ白な湯気の中に入って行った。
デュランダルは濡れた髪を掻き上げながらジュディスを見て、にこりと笑みを浮かべる。ああ、格好いい・・・と騒ぐ心臓が知られてしまわないよう何食わぬ顔でいると、濡れた手に引き寄せられた。

「洗い終わったの?」
「髪はね。洗ってくれるつもりでもあるのかい?」
「・・・触れ・・・ないわ・・・。」
「どうして?」
「・・・恥ずかしいもの。」
「おかしなことを言うね。触られるのは俺なのに。」
「・・・おじさまは、本当に自覚が足りないわ。」
「ふうん?よく分からないが、俺はしてもらうよりするほうが好きだし、いいけどね。」

壁に追い詰めてぴたりと密着する。固い胸と柔らかな胸が触れて、ジュディスは熱さと羞恥心から目眩を覚えた。

「・・・自分で、できるから・・・。」
「それはそうだろうけど、俺がしたいんだよ。」
「・・・っ、あまり・・・急に色々、出来ないわ・・・。」



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